物に働く力をイメージできるようになろう! 〜重力 〜

要約

目次

1 重力の発見!

1.1 重力はある!

一番始めに発見する力は重力です。 もう聞いたことがあるかもしれませんが、重力というのは全ての物に働いている、地球が物を引っ張る力です。 地球が物を引っ張る? なんのことでしょうね。 聞いたことがない人はラッキーです。 これから、自分で重力という力の発見を体験できるのですから!

さて、これからは、何でもいいので何か手に持てる物を用意して読み進めてください。 私はとりあえず、例として本を使います。 本を手に持ってみてください。

なんの変哲もない、普通の光景です。 誰もが日常的に、本を手に持って動かしたりします。 当然、空中で支えておくこともできます。

ですが、よく考えてみてください。 前回、力の性質の項目でやりましたが、物に力をかけると、その物は動き出すはずです。 今、本には力がかかっていますね? 自分で、自分の手で、本を支えるための力をかけています。 自分で力をかけているのだから、疑いようもなく、その本には力がかかっています。

にも関わらず、本は動いていません。 どういうことでしょうか? 空中にある物は特別で、力をかけても動かないのでしょうか? そういえば今まで机の上に置いた本に横から力をかけていただけで、持ち上げて力をかけたことはありませんでした。

ちょっと一旦落ち着きましょう。 もう一度、本を机の上に置いて、色々な向きから手で力をかけて試してみましょう。 そしたら、やっぱり、向かい合うように同じ強さの力が働いている時は動かないけど、他の場合は本は動き出すのが分かると思います。 間違いないです。

じゃあもう一度、本を持ち上げて支えてみます。 やっぱり、自分の手で、下から上に向かって本に力をかけているのに、本は空中で止まったままです。 さて、どういうことでしょう? 本に力が働いているのに、動き出しません。 ん? そういえば、物に力が働いていても、いつも動き出すわけではなかったような・・・?

そうですね。 たとえ物に力が働いていても、その力と向かい合うように同じ強さの力が働いていれば物は動き出さないのでした。 ということは、本を手で支えていても、その支える力と向かい合うように同じ強さの力が働いていれば本は動き出さないはずです! 本を支える力は下から上に支える力ですから、上から下に押し付けるような力が本に働いていれば、つじつまが合います!

でも、本当でしょうか? だって、今、手で支えている本には自分の手以外に触れている物はありません。 一体何から本に下向きの力が働いているというのでしょう?

ちょっと物は試しに、本を空中で支えている状態から、さっと手をどかしてみます。

どうなるかと言ったら、当然ですが本は地面に向かって落ちます。 当たり前です。 物を支えないでおいたら、自然に下に落ちます。

当たり前に見慣れた事ですが、よーっく考えてみましょう。 物に力をかければ動き出すのでした。 そして今、もしかして、空中にある本には上から下に押し付けるような力が働いているのではないか、と疑っています。 実際に空中にある本を支える手をどけたら、本は下に向かって動き出しました

もう一度、机の上に本を置いて色々試してみましょう。 本を右から左に押したら、左に向かって動き出します。 左から右に押したら右へ。 手前から奥に押したら奥へ。 本に力をかけたら、力の向きに動き出しますね。

と、いうことは、空中にある本が支えるのをやめたら下に落ちるのは、本に下向きの力が働いているからではないでしょうか! それで全部つじつまが合います! 物が下に落ちるなんて当たり前だと思っていたかもしれませんが、それはなんらかの力が常に下向きに働いているからなのです! すごい発見です!

実は今発見した、物に上から下に向かって働く力には重力という名前がついています。 これが重力です。 初めて発見した人はすごいですね!

重力の存在を発見したところで、身の回りにある色々な物を手にとってみましょう。 重いですね。 重いということは、自分の手でその物に力をかけているということです。 あれもこれもそれも、みーんな、重さがあります。 どんな物にも、重力は働いています。 その重力とつりあう力をかけるために、腕に力を入れないといけないわけです。 手に感じる重さというのは、力のことなのです!

すごい! 目からうろこですね! 物に重さがあるなんて当たり前で、理由を考えることもなかったかもしれません。 だけど今では、その理由が分かります! 物が重いのは、物に重力がかかっているからです!

さて、私達は物に重力がかかっていることを発見しました。 だけど、どうして重力が働くのかは分かりません。 なぜなんでしょう? 不思議です。 なにか、もっと深い理由があるのではないでしょうか? もっと知りたいですね! だけど今は、とにもかくにも物には重力が働くのだと思っておきましょう。 だって、実際に物を手に持ってみれば、確かに重力が働いているのを確かめることができるのですから。 ひとまずは、物に重力が働くのは当然のことと思っておきましょう!

1.2 重力はどこに働いている?

私達は重力を発見しました。 それだけでもすごい発見です。 でも、もうちょっと欲を出して、物に重力がどのように働いているのかを調べて行きましょう。 これから、どんどん物理が分かって行きますよ!

さて、物にどのような力が働いているか調べるには、どうするのでしたっけ? そう、その物に働いている力に釣り合うような力をかけてみればよいのでした。 そうすれば、自分のかけている力と反対向きで同じ強さの力が、あらかじめ働いていたことが分かります。

では、さっそく重力は物のどこに働いているのかを探っていきましょう。 これ以降はあなたも何か物を用意して読み進めてください。 では、どこに力をかけているのかが分かりやすいように、指先でその物を支えて、支えておける場所を探しましょう。 例えば、本の場合はこんな風に真ん中を支えると支えられます。

ボールペンの場合はこのあたりです。

消しゴムの場合はこのあたりです。

くしの場合はこのあたりです。

さあ、規則性が見えてきましたね。 だいたい、その物の真ん中に近いところに重力は働いているようです。 だいたい? だいたいってどういうことでしょうか。

本や消しゴムのような物を支える時は、ぴったり真ん中を支えるとうまく支えられます。 でも、くしのように片側が重い物を支える時は、ぴったり真ん中ではうまくいきません。

重さがかたよっている物を支える時は、かたよっている側に近い方を支えないといけません。 重さにかたよりがない場合は、真ん中で大丈夫です。 日常生活でも経験することですね。 だけど、改めて考えてみると不思議です。 もっと深く考えたいところですが、とりあえずここはだいたいの規則性を発見しただけで満足しておきましょう! これだけでも十分、物に働く重力を理解する助けになります。

このように、物には重力が働いているといえるような場所があります。 そこを支えると、うまく支えられる場所です。 実は、このような場所のことを重心と呼びます。 重さの中心のことですね。 この言葉は、重力は重心に働く、とか、重心を支える、などという様に使います。 これから使っていくので、覚えてくださいね!

ここでは、重心は、重さがかたよっていない物は物の中心に、かたよっている物は重い方にずれた位置にあることを発見しました。

1.3 力を図で書く

さてさて、これで物に重力がどのように働いているのかも分かりました。 重力についての発見はひとまずここまでにして、ちょっと横道にそれますが力を図に描く方法を紹介します。 これからも物の図や写真をたくさん使っていきますが、その時にいちいち手で支えたりして力の働いている場所を見せるのは大変です。 そんな時、どんな力がその物に働いているか、図で表現できれば説明が楽になります。 説明を読む側も、一度慣れてしまえば、いちいち自分でやってみる手間が省けるので楽になります。 でも慣れるまでは、できるだけ自分で物を支えて物に働いている力を体感してくださいね。 そうやって体感を積み重ねていけば、だんだん図を見るだけで状況を判断できるようになってきます。

力を図に描くと言っても、どうしたらいいでしょうね。 力は目には見えません。 目に見えないなら図に描くこともできません。 いかにも、力が入ってるなーという雰囲気の絵は描けても、それは力そのものを図に描いたわけではないですね。

さて、力を図に描いて表すには、どんなことに気をつければいいのでしょうか? 力は物に働くものです。 もっと言えば、力は物のどこかに働きます。 自分で手で物に力をかける時、いろんな場所に力をかけることができますね。 だから、力を図に描くには、力が物のどこに働くのかを表現できる必要があります。

また、物に力をかける時、力はいろいろな強さをかけることができます。 強い力、弱い力。 どんな大きさで物に力をかけるかは、自分次第です。 だから、力を図に描くには力の大きさも表現できる必要があります。

では、どんな方法なら力を図に描けるでしょうか。 それにはいろいろな方法があるでしょうが、実は広く一般に使われている便利な方法があります。 自分で考えてもいいのですが、ここはひとつ、昔の人が考えた方法を勉強してそれを使いましょう。 それは、矢印を使うという方法です。

矢印というのは、矢の形をした印のことです。 伸ばす棒と>をくっつけたものです。 →です。 もしくは←とかです。 これを使えば物に働く力を図に描くことができます。 物に力が働いている場合は、そこに矢印を描けばいいのです。 また、矢印の大きさによって、強さの違いも表すことができます。 完璧です! 例えば、ある物に右から左に力が働いていたら、右向きの矢印を、力が働いている所に書き加えればいいわけです。

では、手に持った本にどう力が働いているか、図に書いてみましょう。

今、本には下から上に向かって支える力が働いています。 自分で力をかけているのだから、確かにそうです。 その力を図に描くには、力の働いている部分、つまり指先から上に向かって矢印を描き込めばいいわけです。

矢印の長さはなんとなく決めました。 本当はなんとなくじゃダメでしょうけど、今は気にしないでくださいね。 あと、矢印は長さと向きと、どこから始まっているかだけが重要で、色や太さに意味はありませんので、気をつけてください。 単に見やすいように太さや色は決めます。

これなら、自分で手に物を持ってみなくても、どんな力が物に働いているか、図を見れば分かりますね。 これからはどんどん、力を矢印で表していきます!

1.4 身の回りの重力

では重力について発見したことを復習するために、身の回りの物に働いている重力を図に書き込んでいきましょう。

机の上に本が置いてあります。

この本には重力が働いているはずです。 本の重さには偏りがないはずなので、重力が働いている場所は本の中心です。 重力は物を下に動かす力ですから、働いている向きは下です。 手で支える時は下から上に支える力をかけないといけないのだから、そうと分かりますね。 では、力を表す矢印を図に書き込みます。

次は、手に持っている本に働く力を書き込んでみましょう。 本を手に持っている時、本にはどんな力が働いているでしょうか? 重力と、それと釣り合う支える力ですね。 2つの力が働いています。 だから、今回は図に書き込む力は2つです。 それを描くと、こうなります。

今まで、2つの力が釣り合っている時は、その力は反対向きで同じ大きさだ、と言ってきました。 だけど、力なんて目に見えないし、分かりにくかったかもしれません。 それが図に描いて見ることで一目瞭然になりましたね。 今、本には2つの力が働いています。 矢印が2本描いてあるのだから、見た目で分かります。 2本の矢印は、確かに向かい合っていて長さも同じです。 なるほど、こういう状況なら力は釣り合うのですね! 今まで言葉で説明していたことが、一目で分かります。 とても便利です!

では最後に、ちょっと複雑な場合について考えてみましょう。 下の図では3冊の本が机の上に積み重なっています。 この場合、本にはどんな重力が働いているでしょうか?

一冊一冊を手にとって見れば、それぞれの本にどれくらいの重力が働いているか分かります。 どの本にも重力は働いているはずです。 そして、働いている場所は本の中心です。 もし重さに偏りのない本なら、そうなります。 となると、3冊の本の全部に、その中心に重力が働いていることになります。 その3つの重力を図に描くと、こうなりますね。

なるほど、全ての物に重力が働いているのがよく分かります! あなたも身の回りの物に重力が働いている図を描いてみましょう。 紙の上で練習したら、できたら頭の中でイメージできるようになると、とても良いです。

これで重力についての最初の観察は終わりです。 身の回りのあらゆる物に重力は働いています。 物を見たら、「おっ、この物の重心には、重力が下向きに働いているな!」と思って頭の中で矢印を描いてみましょう。 手に取って実際に重力を手に感じてみましょう。 それが力学を理解する第一歩になっていきます!

2 もっと詳しく

2.1 消えた重心

消しゴムを指でささえて中心に重心があることを確かめた後に、その消しゴムを2つに切って、重心が2つに分裂したことを確かめる。その後セロテープで破片をつなぎあわせて、重心が元に戻ったことを知る。重力は地球が物をひっぱる力らしい。じゃあ、地球は常に消しゴムを監視してて、切れてるかどうかを判断している!?

2.2 重心を探せ!

定規と切った消しゴムでシーソーを作って釣り合いを探す。重心は物の中心にあるんじゃなくて、重さの中心にあるのだということを定量的に調べる。

3 かなり詳しく

3.1 本当に重力ってあるの?

これまで重力について様々な発見をしてきました。 身の回りの物にはみんな重力が働いていて、物に重さを感じるのは重力という力を手に感じているのでしたね。 目からウロコです。 もう重力にはすっかりなじんでもらったことだと思います。 ですが、今までの説明は発見を体験することに重点を置いていて、あまり厳密な話でなかったところがあります。 ここからは、もっと厳密な話をしていきます。 難しいなと思ったら、必要になるまで読むのを後回しにしてもらってもかまいません。

重い本をマッチ棒くんが支えている

本をマッチ棒くんが支えています。 重そうですね。 重い本でも、手で支えれば空中に止めておくことができます。

さて、さっきまでこの本はマッチ棒くんに支えられていましたが、今、一瞬のうちにマッチ棒くんは本を支えるのを止めて、どこかへ行ってしまいました。 本は今、空中になんの支えもなく浮いています。 さて、次の瞬間にはどうなるでしょうか?

本が空中に浮いている

もちろん、本は下に落ちます。 日常的によく見る当たり前の現象です。 私達は、支えていると止まっていて、支えなくなると動き出すのだから、きっと、支えるのに使っていたのと反対向きで同じ大きさの力があらかじめ働いていたのだろう、という推論で重力の存在を見つけました。

実はここには、ちょっと論理的なごまかしがあります。 それは、「物に力が働いたとき、その物は動き出す」のだから、きっと、「物が動き出したとき、その物には力が働いている」という推論です。 今回はそれが正しいのでいいのですが、こういう種類の推論は、いつも正しいとは限りません。 原因と結果が逆転してしまっています。

実際に自分の手で確かめたのは、「物に力が働いたとき、その物は動き出す」という現象です。 原因は「物に力が働く」で、結果は「その物は動き出す」です。 これを逆にしてしまって、「物が動き出す」ときならいつでも、「その物に力が働いている」と言うのは推論に過ぎません。

分かりやすい例を一つ上げます。 ある日、寝坊した学生が学校への道を急いで走っていて、不注意から車にはねられました。 病院に担ぎ込まれましたが、奇跡的に軽傷ですんだのでそのまま学校に行きました。 結局学校へは遅刻しました。 まとめると、「車にはねられて、学校に遅刻した」ということです。 原因は車にはねられたことで、結果は遅刻です。 さて、また別の日、その学生は学校に遅刻したとします。 だけど、きっとまた車にはねられたんだろうな、とは普通思いませんよね。 どうせ寝坊かなにかしたせいだろうなと思います。 車にはねられた日はいつも遅刻でしょうが、原因と結果を逆にして、遅刻したなら、車にはねられたせい、とはなりません。

私達は重力を発見するために、これと同じ推論をしました。 「物に力が働いていれば動く」のだから、「物が動いたら力が働いていたのだろう」、と。 かなり危ない考え方です。 物に力が働けば、その物は動くというのは正しい事実です。 実際に自分でやって確かめたのですから。 だけど、物が動いている時は必ず力が働いているのかどうかは分かりません! 物が動いている、ありとあらゆる場合において、何か力が働いているのを確かめなくては正しいかどうか分かりません。

もちろんありとあらゆる場合について、実際にやってみて確かめることはできません。 だから本当に重力があるのかどうかは分かりません。 もしかしたら、空中に浮かんでいる物は、力とはまったく関係のない現象が原因で下に落ちるのかもしれないのです。 だけど、日常的に目にする現象については、とてもよい説明になっています。 どこにも矛盾はありません。 だから、重力はきっとあるに違いない、と思って議論を進めていきます。 もし間違っていたら、戻って考えなおすことにしましょう。

恐い話ですね。 確証のない話を信じて、ずーっと重力はあると思っていたのに、実は重力なんてなかった、ということが判明してしまったらどうしましょうか。 今までやってきた勉強が水の泡です。 だけど、物理学はそういう恐さを内にはらんでいるのです。 どうしてもこういう、本当かどうか分からない事実の上に議論を進めていかないといけません。 それでも、何も分からないよりはずっとマシです。 少なくとも身近な現象を解明するのには、便利に使えるのですから。

ちなみに、このようにどんな推論が正しくて、どんな推論が正しいと言えないかを扱う学問に、論理学という数学の一分野があります。 今やった議論を論理学の言葉で言えば、逆は必ずしも真ではない、となります。 興味がある人は勉強してみるといいでしょう。

3.2 重力の正体ってなに?

ここでは、どうしてあるのか分からないけど、とにかく存在している重力が、どうして存在しているのかの説明をします。 これは物理学の世界で既に分かっていることを、参考までに紹介しておこうということです。 お話として聞いておいたほうがいいと思うので紹介します。

重力というのは、どうしてあるのかは分からないけど、 地球が物を引きつける力のことです。 なので、地球の表面で普通に生活している限り、身の回りの物すべてに働く力です。 身の回りのものや、空気が地球の表面にとどまっていられるのも、重力が働いて、地球の中心に向かって 物を引っ張っているからです。

重力は地球の中心の方向に働きます。 なので、地球の裏側にいる人も、ちゃんと地球の表面に立っていられます。 普通に地球の表面で生活している限り、地球が丸いということはほとんど意識しないですから、重力が働く方向、つまり地球の中心の方向のことを、と呼んでい るのです。 これは直感的に分かりやすく、特に誤解も招かない言い方なので、これからも重力は地球の中心の方向に働く、とは 言わないで、下向きに働く、と言います。

地球の周りに人が立っている図

なんで地球は物を引きつけるのでしょう? 僕はよく知りませんが、話に聞くところによると、アインシュタインの作った、一般相対性理論という理論を勉強すれば、重力をより深く理解できるらしいです。 一般相対性理論によると、時間や空間の歪みが重力の元らしいです。 難しい話ですけど、興味がある人は勉強してみるといいですよ。

3.3

さて、ここまでの話で重力という力があるということはよ く分かったと思います。 これから、重力が物にどう働くかについて詳し く勉強していきたいと思います。

地球上にある、ありとあらゆる物には重力が働きます。 さっきの話で、物に働く重力の大きさを測りたいなら、そ の物を手に持ってみればいいということが分か ったと思います。物を持ち上げて、空中に止めておくためには、重力と反対 向きで、ぴったり同じ大きさの力をかけないといけないか らです。だとすると、日常の経験から言って、重い物には大き な重力が働いているということが分かると思います 。逆に、軽い物には小さな重力が働いていますね。


感覚的にはこれでいいですし、力に関するイメージを育て るにはこれで十分なのですが、一応もっと数字で表しやす いやり方で重力を測る方法を説明しておきます。それには、力の性質の一つである、力が物に働くとその物 の形が変わる、という性質を使います。例えば、ばねなどを使って、それに重さを測りたい物をつ るして、どれだけばねが伸びたかを測ればいいわけです。 ばねをよく伸ばす物ほど、その物に働いている重力は大き いということになります。


身の回りにあるいろいろな物を持ってみて、その物に働い ている重力の大きさを感じてみてください。それが力をイメージできるようになる第一歩です。


さて、これで物に重力が働くということは分かったと思い ます。なのでこれから、物にどう重力が働くかを説明します。

さて、重力というのは、物のどこに働いているのでしょう か。最初に答えを言うと、ある物の、あらゆる部分に働いてい ます。それを具体的に見るために、次の例を見ましょう。

棒が空中に浮いています。もちろん棒には重力が働いていますね。重力が働いているので、この棒は次の瞬間に下に落ちます 。

浮いている棒

この棒を真ん中から切って短い棒2本にしても、もちろん それぞれの短い棒に重力は働きます。この作業を延々と続けて、縦に横にどんどん細かく切って いくと、最後には下図のような小さな破片になります。 もっと細かく切ってもいいですが、それぐらいでとめてお きます。そういう場合にも、それぞれの破片に重力は働くはずです 。破片になっても、これらの破片は当然下に落ちます。ということは、重力は棒の大きさにはよらず、部分部分に 働いているようだと思えますね。

棒を細かく切った図

この分割の作業はいくらでもできるので、どんなに細 かい破片を作ってもその破片には重力が働いている はずです。目に見えないぐらい小さくしようが、その破片には重力が 働いているはずです。仮にある程度小さくなると重力が働かなくなるとすると、 重力が働かない破片が2つ集まってもやはり重力は働かな いだろうし、それが百集まろうと、1千、1万、1兆個集 まってもやはり重力は働かないでしょう。ということは身の回りの大きさの物にもやはり重力は働か ないはずで、おかしなことになります。ですから、おそらくどんなに小さな破片にも重 力は働くはずです。まあ、誰もそんな事知らないのですが、この推論はおそら く正しいでしょう。重力は棒を作っている、どんなに小さな破片にも働きます 。


浮いている棒の図

空中に棒が浮いています。今、棒には重力が働いています。重力は棒を作っている部分部分すべての場所に働いている のでした。それらを矢印を使って表してみます。

棒にかかっている重力を

沢山の矢印で表している図

棒を作っている部分部分すべてと言うと、本当は砂粒ぐら いの大きさの部分に働く力を図示したいのですが、そんな に細かく図を描けないし、細かい事を言えば、限りなく細 かく分割した、部分すべてに矢印を描かないといけません 。それは無理だし、別に分かりやすくもないので、だいたい これくらいの数の矢印を描きました。これなら実際に、棒を作っている小さな部分に下向きに重 力が働いている、という言葉の説明が分かりやすくなりま す。この図は、棒を作っている各部分の中心に重力がちょっと ずつ働いているという事を表しています。

ですが、まだちょっと沢山の矢印は見づらいし、描くのも 大変です。そこで、この小さな矢印を全部まとめて1本の矢印で表現 する事にします。

棒にかかっている重力を1本の矢印で表している図

これならだいぶ見やすいですね。これは棒に1つの大きな重力が棒の中心に下向きに働いて いる、という事を表しています。この矢印の長さが棒に働いている重力の大きさ、つまり棒 の重さを表しているのです。

これは確かに見やすいですが、必ずしも実際に棒に働 いている重力を表していないという事には気をつけ ないといけません。実際には、棒には小さな重力が棒を作っている各部分部分 、全部に働いているのです。それらが全部合わさって、手に感じられるぐらいの大きさ になるのです。ここではその合わさった重力を1本の矢印で表しているの です。この1本の矢印は特殊な場合は正しい重力を表しているの ですが、必ずしもそうではありません。

それは次の例を見れば分かります。

マッチ棒くんが棒を支えている

マッチ棒くんが重力の働いている棒を支えています。棒は支えられて止まっているので、マッチ棒くんは棒に重 力とちょうど同じ大きさで反対方向の力をかけていること になりますね。それを図に描き入れてみます。

棒を支えている力を描き入れた図

これでだいぶ今起こっている事が分かりやすくなりました 。マッチ棒くんの手から青色の矢印で表された力が棒に働い ていて、そのおかげで棒に働いている重力は打ち消されて 、棒は止まっていられるのです。その力の大きさは同じなので、青い色の矢印と赤い色の矢 印の長さは同じです。

この場合はこの矢印は正しい重力を表しています。マッチ棒くんが棒に向かってかけている力は、手で支える 力なのですから、実際に自分で持てば体感できます。それが青い矢印で表される力であることは、実際に自分で 確かめられるので、確かな事です。重力がその力によって打ち消されているとしたら、、それ は図の赤い矢印のような力でないといけません。

では、このような描き方が正しい重力を表していない場合 を紹介します。それはこんにゃく等の軟らかい物に働く重力です。

こんにゃくが空中に浮いている

空中にこんにゃくが浮いています。それに働いている重力を1本の赤い矢印で表しています。 上の棒の場合と同じです。

こんにゃくを支えるマッチ棒くん

しかし、この例ではこのような描き方では正しい重力を表 せていません。今、マッチ棒くんは空中に浮かんでいたこんにゃくを支え ようとしています。もし図のように、こんにゃくに働いている重力がこんにゃ くの中心に働いているのなら、マッチ棒くんはそこを支え るのでこんにゃくは動かないはずです。さて、では実際にこんにゃくをこういう風に支えたらどう なるでしょうか。もちろんこんにゃくは軟らかいですから、端がたるみます ね。

こんにゃくはたるむ

マッチ棒くんが支えている、そのごく近くは動きませんで したが、こんにゃくの端の方は動き出しました。物が動き出したということは、それにかかっている力は打 ち消されていなかったということです。つまり今の場合、こんにゃくの真ん中に働いている重力は 打ち消されていたのですが、端の方に働いていた重力は打 ち消されていなかったのです。だからこんにゃくの端は動き出したのです。

重力はその物の部分部分に働くのでした。だからそれをできるだけ正確に描くとこうなります。

たくさんの矢印によってこんにゃくに働く重力を表す

この図を見れば、マッチ棒くんの手はこんにゃくの中心近 くに働いている重力だけを打ち消して、端の方に働いてい る重力は打ち消していない事がよく分かります。こういう場合には、見にくくはなりますが、沢山の矢印を 使わないと重力は表せません。

さて、棒の場合とこんにゃくの場合とで一体何が違ってい たのでしょうか。それは支えている物の形が変わるか変わらないか が違っていたのです。棒は硬いですから手で支えたぐらいでは形はほとんど 変わりません。それに対してこんにゃくはすぐに形が変わります。ここが違っていたのです。


空中にまっすぐになって浮いている時からたるむまでの間 にこんにゃくの端が動くというのは間違いがないのですが 、その後で一体どんなことが起こるのかというと、少し話 しが難しくなってきます。というのは、こんにゃくは一度たるんだ後、今度は少し張 り返して上に跳ね上がるだろうからです。要するにぷるんぷるんと震えるだろうという事です。そしてその震えが納まった後、こんにゃくはマッチ棒くん の手の上にしっかりと支えられて止まるだろう というのが、日常の感覚から分かります。この場合はマッチ棒くんがこんにゃくにかけている力はこ んにゃくに働いている重力を完全に打ち消しています。 止まっているのだから当然です。

なんだか話がごちゃごちゃになってきました。この辺の話は、次の原子間に働く力をやれば分かるように なるはずなので、すっきりしないと思う人も、とりあえず 先に進んでください。


実はまったく形が変わらない物に働く重力は、 1本の矢印で表す事ができるという事が、数学的に証明で きます。棒はまったく、というわけではありませんが、目で見たぐ らいでは変わらないぐらいに形が変わりません。だから、まったく形が変わらない時とほとんど同じこ とが起こるという事が期待できます。この、実は違うけどほとんど同じだから同じ物 として扱おう、というやり方の事を近似と言い ます。近似を使う事を、近似する、近似を使って考える事を、近 似的に考える、などと言います。これもよく使われる表現なので、覚えるようにしてくださ い。これは、近いから似ている事にしよう、という意味で、要 するに面倒だからテキトーに扱おうというのを 、格好つけて言っているだけです。このテキトーさが許せない人は一生物理を理解する事は出 来ないので、あきらめて数学の道を歩みましょう。

さて、話を今の重力を表す矢印に戻します。棒に働いている重力は1本の矢印で表す事ができました。 少なくとも、1本の矢印で表したとしても、変な結論は得 られませんでした。これを、棒の各部分部分に働いている重力を、真ん中 に働く大きな1つの重力で近似したと言うのです。 そしてその近似は十分、理にかなった説明になっていたの です。一方こんにゃくに働く重力の場合は、1つの重力で近似し ようとしたけれど、その近似は上手くいかなかった、とい う事になります。

なので棒の中心に描かれた1本の矢印は、棒全体に働いて いる重力を近似的に表したもの、という事にな ります。十分似ていて、違いはほとんど無いのですが、同じか違う かと言えば、実際に起こっている事とは違います 。いくら硬い棒だって、支えた時に歪みます。始めまっすぐだったとして、それを支えた時に歪んだのな ら、棒は少し動いたという事になります。少しでも動いたのなら、それは棒に働いている重力が打ち 消されていなかったという事になります。という事は、やはりこの、1本の矢印で重力を表す方法は 間違いという事になります。

でも1本の矢印で重力を表すのは見やすいし簡単だし、便 利です。だからその違いには目をつむって、楽な扱いをしたらいい のです。こんにゃくの時のように、その違いが無視できなくなって 来たら、今度は沢山の矢印を考えたらいいのです。まあ、出来る事ならいつも沢山の矢印を考えた方がいいん ですけどね。しかし人生、時間は有限で貴重です。一々沢山の矢印を描くのは大変なので、僕は必要に迫られ た時以外は簡単に済ませるのがいいと思います。これからもこのサイトでは、必要な時以外は力を表す矢印 は1本で済ませます。


さて、これで重力や力を図で描く方法は分かったと思いま す。重力は物の中心から下向きに引く矢印で表せましたね。 しかし、さっきから気になっていた人も居るでしょうが、 物の中心って一体どこの事を言ってるのでしょ う。今まではきっちりした四角だけを考えてきたので、中心と 言えば右左、上下の長さが同じになる、見たままの中心な のですが、例えば下の図のような、よく分からない形の物 の中心と言うと、ちょっとどこの事なのか分かりませんね 。

変な形の物の図

こういう複雑な形の物の中心を考える前に、まずは次のよ うな形を考えます。

金槌が空中に浮いている

金槌が空中に浮いています。これを支えるとしたら、どこを支えないといけないでしょ うか。

マッチ棒くんが金槌の真

ん中を支えている

マッチ棒くんが左右の長さが同じになるようなところを支 えています。やってみれば分かりますが、この場合は金槌の頭の方、金 属がついている方が下に動き出して支えられませんね。

金槌が動き出す

金槌を支えるには、頭の方に少し近いところを 支えないといけません。これを図に描いてみます。

マッチ棒くんが金槌を支

えている

図にはマッチ棒くんが金槌にかけている力だけを描いてい ます。今、金槌は動いていないので、この力は金槌に働いている 重力と打ち消しあっているはずです。その力を図示すると次のようになります。

マッチ棒くんが金槌を支

えている

マッチ棒くんが金槌にかけている力は、自分でかけている 力ですから間違いなくそういう力が働いていると言えます 。それを打ち消すのですから、金槌に働いている重力は図の ようになっていないといけません。つまり、金槌に働く重力の働いている場所は、長さの 上での中心よりも頭の方にずれているという事にな ります。

このようなやり方によって、支えた時に重力を打ち消 せる場所というものを見つけられます。物の形が変わらない時は1本の矢印で重力を表せるのでし た。という事は、その物に働いている重力は支える力と打ち消 しあわないといけないのですから、そこに働いていると言 えます。

変な形の図を支えている

図

マッチ棒くんが変な形の図形を支えています。マッチ棒くんの手から働いている力が図形に働いている重 力を打ち消しているのですから、この場合はだいたいこん な風に重力が働いている事になります。

重力を描き加えた図

この図はだいたい合っているのですが、矢印の根元は力の 働いている点を表すので、どの高さに働いているのかも考 えないといけません。つまり、重力はマッチ棒くんの手元に働いているのか、そ れとも物のてっぺんに働いているのか、中央付近なのか、 分からないという事です。

重力が手元に働いている

図、てっぺんに働いている図

これは図形を傾けて、またどこかで支えられる点を探すこ とで解決します。下図の場合、重力は1回目にマッチ棒くんが支えた手元か ら、物のてっぺんまでのどこかに働いているはずです。 でないと支えられないので。そこを点線で表しています。

点線を書き加えた図

そこから図形を傾けてもう一度支えられる点を探します。 そして見つかった場所の直線上にやはり重力の働いている 点があるはずです。さらに、その重力の働いている点は、さっき見つけた点線 上にも無いとおかしいのですから、その2本の線の交わる 点に重力は働いていることになります。なので重力の働いている点は下の図のようになります。

重心から重力が働いてい

る図

このようにして見つけた点は特別な点ですので重心 という名前がついています。重力は重心から下向きに働くのです。今まで物の中心と言ってきたのは、すべて重心の事です。 きれいな球とか、直方体とかは左右上下対称ですから、ぱ っと見た時の中心がそのまま重心になりますが、複雑な形 だとそうはいきません。それがどこにあるかは実際に測ってみるか、詳しく計算し ないと分かりません。ですけど、大雑把に言えば、重心は重いほうに偏る という性質を持ちます。ただの棒ならぴったり中心が重心になりますが、金槌だと 頭の方に偏ります。重いほうにより力をかけないといけないのは、当然と言え ば当然ですね。


ここでは、重力を勉強しました。勉強したことをまとめましょう。

重力は地球上ではいつも働く。重力は常に下向きに働く。重力は重いものには強く、軽いものには小さく働く。重力は重心に働く。物を支えようと思ったら、重心を支えなくてはならない。


ここまでで、とりあえず重力は分かったと思います。まだまだ勉強すべき内容はありますが、とりあえず重 力をイメージするにはこれで十分だと思います。

次に行く前に、身の回りの物に働いている重力を、頭の中 で矢印を引くことによってイメージして見て下さい。例えば、今このサイトを映しているパソコンの画面の真ん 中から下に矢印を引いてみてください。コップを手のひらに乗せて、その中心から出る矢印をイメ ージしてみて下さい。そしてその重力の大きさを手に感じて、自分が支えている からコップは落ちないのだということを実感してみて下さ い。そういった体験は必ず、力をイメージできるようになるの に役に立ちます。


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