第6章 物理3 運動方程式とその解

要約

運動の法則を導くために簡単な実験をし、慣性の法則、運動方程式、作用反作用の法則という運動の3法則を導いた。この3つの法則を使えば物の運動を説明し理解し、あらかじめ知られていない運動を予言することができる。

目次

6.1 運動の定性的法則

6.1.1 実験

とりあえず試しにやってみる

この章では物の運動についての法則を導き出し、導いた法則を様々な場合に当てはめて物の運動について理解していく。 まずは実際に身の回りの物の運動をよく観察して、そこになんらかの法則がないか考えていく。 そのために坂道を転がる玉の運動を実際に実験して観察してみる。 読者諸君も実際に自分の手と目で実験装置を作り、物の運動を観察して欲しい。 そうすることで物の運動の法則をよく理解することができるようになるはずである。

まずは坂を用意する。 たとえば本を何冊か重ねて、そこにまな板や本を斜めに置いて斜面を用意することができる。 そこに硬貨やピンポン玉、ビー玉などを転がせば簡単な実験装置ができあがる。 近所の坂道で空き缶やペットボトルを転がしてもいい。 何でもいいから斜面と丸い物さえあればいい。 ちなみに硬貨を使う場合は転がりやすくするために何枚かの硬貨をテープでまとめることをお薦めする。 さて、このような斜面と玉を使って物の運動の法則を観察から見つけてみる。 ひとまずは、本を積み重ねて斜面を作りそこに硬貨を転がす場合を考える。

実際に本を積み重ねて作った斜面と硬貨を用意して、硬貨を斜面に立てて手を離すとどうなるのかをやってみる。 硬貨を手でつまんで、縦に立てて斜面に置くと、手で押さえている限り硬貨は止まったままである。 そして手を離すと硬貨はころころと斜面を下って転がりはじめる。 やがて斜面を下り終えて床の上を転がるようになり、しばらく進むと止まる。

どれくらいの距離を進んだ所で止まるかとか、どれくらいの時間をかけて斜面を下り終えるか、といった細かい話は置いておいて、大まかな様子を描写するとこのようになる。 このような数値を使わない大まかな様子の描写のことを定性的性質とか定性的議論などと言う。 逆に数値を使った議論は定量的な議論と呼ばれる。 まずは運動の定性的な性質、法則について議論し、物の運動の大まかな性質を理解した後で定量的な議論をしようと思う。

運動の法則を見つけるために、今の斜面を下る硬貨の運動の様子をもっとくわしく観察してみる。 硬貨は始め止まっている。 手で押さえているのだから当然である。 そして手を離せば動き出す。 これもやはり、斜面に転がることができる丸いものが置かれているのだから、当然である。

しかし、この当然の現象の中に重要な法則が隠されている。 というのは、始め止まっていた物が動き出しているのだから、運動の様子が変わっているのである。 この現象のどこかに、物の運動を変える原因が隠されているはずである。 運動の様子を変える原因を見つけることができれば、そこから運動の法則を見つけることができることが期待できる。 つまりここには何らかの運動に関する法則が隠されている。

それが何なのかを探るために、今、斜面の上の硬貨がどのような状況に置かれているかをよく観察してみる。 硬貨はもちろん斜面の上にあるから、斜面を下に向かって転がり落ちるわけだが、その原因になりそうなものを探ってみると、斜面の上の硬貨には重力や斜面から力が働いていることに気がつく。 そこで、これらの力が硬貨が動き出した原因になっているのではないかと推測してみる。 今、斜面の上の硬貨に働いている力を数えてみると、物に常に働いている重力と斜面からの垂直抗力、斜面からの摩擦力である。 これらの力が足し合わさって、斜面の上の硬貨を斜面の下に転がしているのだと推測できる。

重力は常に真下、斜面からの垂直抗力は斜面から垂直に、斜面からの摩擦力は斜面に水平に働く。 これらをベクトルと考え足し合わせたものが、今、硬貨に働いている力である。 重力は真下に働くのに対し、斜面からの垂直抗力は斜面から垂直に働くので斜面の傾きによって向きが変わる。 よって、それらの合計の力も斜面の傾きによって変わる。

斜面の傾き方が、例えばほぼ水平で傾いていないなら垂直抗力は真上に向かって働くのだから重力をほぼ完全に打ち消すし、地面に対して45度傾いた斜面だったら、45度傾いた斜面から垂直な方向に垂直抗力は働くので、その力は上だけでなく横向きの力を合計したものになる。 このように垂直抗力は斜面がどれくらい傾いているかによって、上向きの力と横向きの力の割合を変える。 垂直抗力の中の上向きの力の部分は重力と打ち消しあうが、横向きの部分は重力とは打ち消しあわずそのままになる。 垂直抗力の中の上向きの力は重力と打ち消しあって、結果重力の下向きの力が弱くなるが、完全に打ち消されることなく単に弱くなるだけなら、結果としては横向きの力と下向きの力が残って、斜面を下るような力になるのだと考えることができる。

この議論をベクトルを考えてもう少しすっきり書いておく。 まずは力を上下左右前後の合計と考えて計算していくのだが、どの向きを上下左右前後と考えるかを決める。 上下は普通の感覚で言う上下でいい。 左右は本を積み重ねて作った斜面を横からながめることにして、右下がりの坂を作るか左下がりの坂を作るかは個人の自由なのだが、右手で硬貨をつまんで離すときに便利なように、左下がりの斜面を作ったとする。 そうすると硬貨は自分の右側から左側へと坂を下っていくことになる。 そして、前後の向きには特に力は働いていないので特別に注目すべきことはない。

上下左右前後をこのように決めれば、力の向きを考えることができる。 上向き、左向き、前向きを正の方向だと考えると、重力と垂直抗力は、

(左,前,上)=(0,0,-重力)
(左,前,上)=(垂直抗力の横向きの力,0,垂直抗力の上向きの力)

ということになる。 垂直抗力の横向きの力、とか上向きの力とか言うと長いので、抗力(横)とか抗力(上)とか略して書くようにすると、これらの力の合計は、

(0,0,-重力)+(抗力(横),0,抗力(上))=(抗力(横),0,抗力(上)-重力)

ということになる。 結果は垂直抗力の上向きの部分の力が重力より強いか弱いかによって違うが、仮に弱いとすると、抗力(上)-重力の部分は負になるので、全体としては左向きの力と下向きの力の合計が、今、硬貨に働いている力である。 左向きと下向きの合計なのだから、全体としては左下、つまり斜面を下る方向に向かって力が働いていることになる。 これをさらに打ち消すような摩擦力が働いているはずなので、それを摩擦と書いて引いておくと、

(抗力(横),0,抗力(上)-重力)-(摩擦,0,摩擦)=(抗力(横)-摩擦,0,抗力(上)-重力-摩擦)

となる。 それがどれくらいの強さになるかは分からないが、とにかく斜面との間に摩擦があってそれが硬貨にかかる力を少し弱める。 今、このような力が硬貨にかかっている。 重要なのは、これらの力の合計が傾向として斜面を下る方向に向いた力になっているということである。

このような力がかかっているとき、硬貨は斜面を下っていくのである。 このような観察結果から、力が物に働いているとき、物はその方向に動き出す、という運動に関する法則を見つけることができる。 だが、これはまだそういう推測ができるという、予測に過ぎないのでひとまずは仮説としておく。 この仮説の下で議論を進めていこうと思う。

最初手で硬貨を押さえているときは、斜面に置かれた硬貨にかかっている左下に向いた力を手の力で打ち消している。 つまり硬貨に働く全ての力が打ち消されている。 この状態を(0,0,0)と書くなら、これは何も力が働いていない状態ということになる。 何も力が働いていないなら、物は止まっているということになる。 これは身の回りの物を見渡しても正しそうだと分かる。 物は力をかけて動かそうとしない限り、普通は止まっているからである。

そして手を離すと、斜面に置かれた硬貨に働く力を打ち消している手の力がなくなるので、(抗力(横)-摩擦,0,抗力(上)-重力-摩擦)という力が硬貨に働いているという状況になる。 今まで力が働いていない状況から、力が働いている状況に急に変わるわけである。 そして力が働くと、今まで止まっていた硬貨が転がり始めるのである。 つまり力が働くと物は動くと言える。

力にはこのように止まっている物を動かす働きがある。 始め、硬貨にかかっている力はすべて打ち消されていたが、手を離すのと同時に打ち消す力がかからなくなって、重力や垂直抗力や摩擦力が複雑に入り組んだ力によって動き始めるのである。 ところで止まっている硬貨を動かし始めた力は、硬貨が斜面の上にある限りは変わらず働き続けるはずである。 重力は地球の上ならどこにいても働くし、斜面が歪んでいない平らな板を使って作った斜面なら、斜面の上の方でも下の方でも斜面の角度は同じになる。 斜面の角度が同じなら垂直抗力の向きも同じになる。 摩擦力がどうなるかはよく分からないとしても、動いている間にも摩擦力は働くのでなんらかの摩擦は働いているだろう。 ということで、確かに硬貨が動き出した後にも硬貨には力が働いているはずである。

その影響は何もないのだろうか。 何か影響があれば、運動をよく観察すればその影響を見つけられるはずである。 そこで何度も何度も斜面の上を硬貨を転がしてその様子を観察すると、斜面を下るにつれて硬貨の転がる速さが速くなっていることがわかる。 何度も実際に硬貨を転がして、転がる様子を注意深く観察すると、手を離した直後は硬貨は止まった状態からちょっと動き出すだけであるが、転がるにつれてどんどん勢いが増していくのに気づく。 これは硬貨が斜面を転がっている間に これが硬貨が転がっている間にも力が働いているためなのではないかと推測してみる。 つまり、物に力が働くと動く速さが速くなるのではないかという仮説を立ててみる。

そう考えると、この仮説は先ほど立てた止まっている物に力がかかると動き出すという仮説よりもっと一般的な仮説になっている。 なぜなら、止まっているというのは動いていないということで、動き出すというのはゆっくりではあるが動いているということで、動く速さが速くなっている。 つまり、動き出すというのは動く速さが少し速くなるということである。 手で押さえていれば硬貨に働いている力が全て打ち消されているから速さが速くならない、つまり始め止まったままならずっと止まったままだったのが、手を離すことにより斜面を下る方向に力がかかっている状況に変わって速さが速くなる、ということである。 そういう意味で止まっている物に力がかかると動き出すというのは、物に力が働くと動く速さが速くなるということの特別な場合であることが分かる。

それは、硬貨が斜面を下りきって床の上を転がっている間は硬貨は速くならないということからも分かる。 斜面を下りきって床の上に降りてしまえば、床は水平なので、床から硬貨に働く垂直抗力は重力と同じ方向に働くことになる。 斜面にあったときは横方向の力を生み出していた垂直抗力が縦にしか力を生み出さなくなる。 そして重力ときれいに打ち消しあって上下方向には力がかかっていないのと同じことになる。 だから床の上を転がっている間は、硬貨の動きの速さは速くならない。

硬貨の動く速さが速くなることがないのはその通りなのだが、速くならないどころか、床の上ではどんどん遅くなっていく。 硬貨は床の上をしばらく転がっていくが、どんどん動く速さが遅くなり、最後には止まる。 動いている物はそのままにしておけばやがて止まるというのは日常の感覚からも明らかなことである。 しかし、その現象も力となんらかの関係があるはずである。 止まっている物を動かし、動いている物の動きの速さを速くするのが力なら、動いている物を止めるのもまた力が原因ではないだろうかと推測するのが普通だと思う。 そして今、硬貨には横方向の力として摩擦力が働いている。 これが硬貨の動きの速さを遅くし、最後には止める働きをしているのではないかと推測してみる。

そのために床の上で硬貨に働いている力がどのようになるのかを簡単に考えてみる。 まず重力は常に働いている。 床から垂直抗力が働いているはずだが、それは床が水平ならそこから垂直に働くのだから真上に向かって働く。 床からの摩擦力は今硬貨は左向きの坂を下り終わって右から左に向かって動いているのだから、進行方向の逆向きに摩擦力は働くので右向きに働く。 これらをすべて足すと、

(左,前,上)=(0,0,-重力)+(0,0,垂直抗力)+(-摩擦力,0,0)

=(-摩擦力,0,垂直抗力-重力)

ということになる。 もし垂直抗力が重力をきれいに打ち消しているのなら、硬貨にかかっている力は摩擦力だけになる。 よってもし硬貨に働く力が硬貨の動く速さを遅くしているのなら、それは摩擦力の働きであることがわかる。 摩擦力の向きは右向きで硬貨の進んでいる方向は右から左だということを考えると、どうやら進む向きと逆向きに力が働いているときは物は遅くなるのではないかと推測できる。 斜面を下っていたときは進む方向と力の向きが同じだったから速くなったが、逆向きだと遅くなるのではないかと推測できる。

ここまでで、実際に身近な物の運動の様子をよく観察することによって、物が進む向きと同じ向きに力がかかっているなら動く速さが速くなり、逆向きなら遅くなる、という物の運動の法則を見つけることができた。 この法則は実際に身の回りの物を動かして見つけた法則で、本当に正しいのかどうか分からない仮説ではあるが、とりあえず今の場合は正しいように見える仮説である。 この法則を使えば物の運動の様子をよく理解し、あらかじめどのような運動をするのか知らない物でも、どのような運動をするか予測することができる。

6.1.2 公理化

慣性の法則

このように物に力が働いたとき、物の動いている方向と同じ向きに力が働いていれば動く速さが速くなり、逆向きなら遅くなるという運動の法則を見つけることができた。 これは物に力が働いたら、その運動の様子が変わるということを意味している。 この法則さえあれば物の運動を理解できそうであるが、これをより洗練して簡潔な法則にしていくことを考える。

まず最初に考えるのは、この法則は物に力が働いたときどう物が動くのかを言っているだけで、力とは関係の無い物の運動については何も触れていないという点である。 つまり、物が動くのには様々な原因があってそのうちの1つが力であり、その他にも様々な原因によって物が動くとしたら、これだけでは不十分で残りの様々な原因が物の運動に対して与える影響を調べなくてはならない。 だが、ここでは物の運動に影響を与えるのは力だけであると仮定する。 これは仮定であるが、力以外の物の運動に影響を与える原因が見つかるまではひとまず信頼に足る仮定である。 そして身の回りの現象を見る限り、力以外の原因が物の運動に影響を与えている様子はないので、これは正しい法則だと考えておく。 もし力以外の物の運動に影響を与える原因が見つかったら、この法則は考え直さなくてはならない。

つまり、運動の法則というのは、物の運動に影響を与えるのは力だけである、物に力が働いているなら物の動く速さは速くなったり遅くなったりする、という2つの法則からできているということが分かる。 この2つの法則が正しいなら、あとは物にどのように力が働くのかを測る方法さえあれば物の運動を全て理解することができる。 なぜなら物の運動に影響を与えるのが力だけなのだから、力が物の運動に与える影響さえ分かれば話としては十分で、それは既に分かっているのだから物の運動の全てが解明されたことになるからである。 物にどのような力が働いているかを知るために、物に働く力がすべて打ち消しあっていればその物は動かない、という法則が必要になる。 これは第4章でさんざんやった内容である。 この3つの法則はまとめて、運動の3法則と呼ばれている。

これらの3つの法則を使えば物に働いている力を見つけ、その力によって物がどのような運動をするのかを予測することができる。 つまり物の運動を完全に理解し、予測することができる。 だからこれらの法則は運動の3法則と呼ばれ、特別に重要な法則だと扱われているのである。

これらの法則はそのままでも運動の法則として使えるが、今後のこともあるのでもっと洗練して簡潔な法則にしておく。 それは内容は同じだが、表現の仕方を変えてもっと分かりやすい内容にしておくということである。

まずは物の運動に影響を与えるのは力だけである、という法則について考える。 物の運動に影響を与えるのは力だけであるということは、つまり物の運動が変わるのは力が働いているときだけであるということで、力が働いていないときは物の運動は変わらないことを意味する。 物の運動が変わらないのだから止まっている物はずっと止まっているし、動いている物はずっと動いているということである。

これは先ほど本で作った斜面と硬貨を使って実際に物の動きを観察したときの例に当てはめると、斜面の上で手で硬貨を押さえていたときは全ての力が打ち消しあっていて、力が働いていないのと同じ状況だったので、手を離すまでは止まっている硬貨は止まり続けている。 そして手を離したら斜面を下り、下り終えたら床の上を転がる。 その時は重力も垂直抗力も打ち消しあっているので、摩擦力だけが働いている状況と同じ状況になっている。 そして摩擦力が硬貨の動く向きと逆向きに働いているから硬貨の動く速さはどんどん遅くなっていくが、もしも摩擦力も働いてなければ遅くなることはないはずである。 なぜなら、力が働いていないなら物の運動は変わらないからである。 つまり、止まっている物はずっと止まっているし、動いている物はずっと動いているということになる。

力だけが物の運動に影響を与え、力の物の運動に与える影響というのは動きが速くなったり遅くなったりするということなら、力が働かなければ物の運動の仕方は変わらず、止まっている物はずっと止まり続けるし、動いている物はずっと動き続けることが分かった。 これらは話としてはまったく同じことなのだが、少し言い方を変えるだけでかなり意外な事実が浮き彫りになった。 止まっている物が力をかけないかぎりずっと止まったままであることは日常的にいくらでも見る現象なので、分かりやすいと思うが、動いている物も力をかけないかぎり動き続けるというのは意外に思うかもしれない。 しかし、例えば球技で投げつけられたボールを止めようと思ったらボールに力をかける必要があるし、こちらに向かって突進してくる人を止めようと思ったときもがんばって力をかけて止める必要があるわけで、物を止めるのにも力が必要だということは確かなことである。 もしボールや相手に力をかけずにいたら、それはそのまま通り過ぎてしまうわけで、動いている物は力が働いていないときは動き続けるのである。

このように、物に力が働いていないとき、止まっている物は止まり続け、動いている物は動き続けるという性質がある。 止まっている場合と動いている場合とで2種類の場合を考えるのは面倒なのでそれを1つにまとめると、物に力が働いていないとき、その物は元の運動を続ける、と言うことができる。 止まっているのもある種の運動だと考えれば、始め止まっているという運動をしている物は止まり続けるし、動いている場合はその運動の仕方を続けるということである。 これは物の持つ本質的な性質で、慣性の法則と呼ばれている。 元の運動を続けようとする性質を慣性と呼ぶのである。 慣性によって物が運動し続けるとき、慣性が働いているとか慣性がつくとか言うことがある。

運動方程式

次は力が物の運動にどのような影響を与えるかを説明している、物の動く方向と同じ方向に力が働いているなら動く速さが速くなり、逆方向なら遅くなる、という法則について考えていく。 これもはやり速くなる場合と遅くなる場合と2種類の場合があって長ったらしいので簡潔にまとめられないかを考えていく。 力が物に与える影響というのは動く速さを速くしたり遅くしたりするとういことである。 力の向きと運動の向きが同じなら動く速さが速くなり、違うなら遅くなるということなのだが、遅くなるというのを逆方向に速くなると考えれば、どちらも同じように扱えるのではないかと考えてみる。

止まっている物に力をかければその物は動き出す。 これは動いていなかった物が力の方向へ動くようになったということで、物の動く速さが速くなったということである。 例えば止まっている物を右から左に押したら、その物は左向きに動き出す。 同じように左から右に押したら、その物は右向きに動き出す。 これは止まっている物、つまり動いていない物に対して力が与える影響である。 しかし物が止まっていようと動いていようと、力は力なので、動いているときにも似たような影響を物に与えているのではないかと考えることができる。

物が動いているときは動いている方向に対して同じ向きか逆向きかの違いによって物の動きに与える影響が変わってくる。 動く方向と同じ向きの力はその物の動きを速くするし、逆向きの力は遅くする。 もし物が右から左に動いているとしたら、左向きの力は物を速くして右向きの力は遅くするということである。 これは止まっている物を左に動かしたり右に動かしたりするのと似ている。

力が物に与える影響というのは、その物が動く速さを速くしたり遅くしたりするということである。 つまり、力は速さを変えるのである。 速さが速くなることを速さを加えるということで、加速と言う。 逆に遅くなることは速さを減らすのだから、減速と言う。 力は物を加速させたり減速させたりするのである。

ということで、力が物に働くとその力の向きがその物の動く向きと同じなら加速し、逆なら減速する、と法則を言い換えることができるが、これでは単純に言葉を言い換えただけで内容はまったく変わっていない。 そこで減速するというのを、逆方向に加速すると考えることで速くなる場合と遅くなる場合との2種類の場合があるのをなくすことができる。 逆方向に加速するというのは、止まっている物を右へ押せば右に加速し、左へ押せば左へ加速するのと同じように、動いている物もその動いている方向に関係なく、右に押せば右に加速し、左に押せば左に加速する、と考えるのである。 力が物の運動に与える影響は、どの方向に動いていようが止まっていようが常に、その物を力の方向に加速させるというものだと考えるのである。 この場合、物が動いていて力の方向と同じ向きに動いていれば、分かりやすく物の動く速さが上がる加速をするのだが、力の向きと動いている方向が逆の場合は逆向きに加速する、つまり逆向きに進もうとするというわけで、今まで進んでいた方向への速さが遅くなったり、力が強い場合は進む方向が変わって逆に進むようになるのである。

こう考えると、物の運動に力がどのような影響を与えるかについての法則は、力が物に働くとその物は力の方向に加速する、と言うことができるようになる。 力には上下左右前後の3つの方向があるが、力の向きによってそれらの3つの方向のどこか、あるいはそれらの組み合わせの方向に物は加速するのである。 加速する方向とその物の動く方向が同じなら、今の動く速さが速くなるだけだが、違う場合は物が今どの方向に動いているかには全く関係なく、その物は力の方向に加速するので、減速したり動く方向が変わったりする。

これも日常的に体験している現象から理解することができる。 例えば球技などでまっすぐ動いているボールを横から押すなり蹴るなりすれば、進む方向が変わって斜めに進むようになる。 これはボールにかけた力によって、今まで動いていた方向とは違った方向にボールが加速したためである。 しかし、始め動いていた方向と加速する方向が違う場合は話しが複雑になるので、運動の定性的な性質を考えている間は物が動いている方向と同じか反対向きにしか力が働かない場合だけを考えていく。 これでは一般的な運動は理解できないが、ひとまず運動の法則の定性的な性質を理解するには十分である。 後でくわしく紹介するが、この力と運動の法則を方程式を使って書いたものは運動方程式と呼ばれている。

作用反作用の法則

最後に物にどのような力が働いているのかを知るための法則である、物に働く力がすべて打ち消しあっていればその物は動かない、という法則について考えていく。 この法則があることによって、実際に自分の手で物に力をかけその物を動かないように支え、その力の強さを見ることによって手の力を打ち消すような力が物にかかっているということが分かる。 そうやって身の回りにある物に働く力を見つけることによって、先ほどの力と物の運動の法則から物がどのような運動をするのかを理解したり予測したりできるようになる。

この法則をもっと洗練したものにするために、本や鉛筆などの物をなんでもいいからハの字や人の字のような形に組んで、お互いがお互いを支えあうような場合について考えてみる。 とりあえず本をハの字型に組み合わせたとすると、今ハの字型に組み合わせた本には重力が働いているので、何の支えもないなら動き出すはずであるが、そうはなっていない。 これは組み合わせた2つの本がお互いがお互いに支えあって動かないようにしているためである。 問題はこの力の大きさはどのようになっているか、ということである。

試しにハの字になっている片方を外して指で同じように支えてみる。 そうすると、うまく指で押さえている限りは本を動かないように支えることができる。 指を外すと本は倒れてしまうので、指の力も含めて、本にかかっている全ての力がお互いに打ち消し合っていることが分かる。 その状況を確かめた後で本を戻してまたハの字型に組み合わせてお互いがお互いを支えあうようにしてみる。

今、2つの本がお互いにお互いを支えあっているのだから、それらの間に働いている力は全てが打ち消しあっている。 そうでなければ本が動き出してしまうのだから、必ず打ち消しあっている。 今、2つの本には様々な力が働いている。 例えば重力や、机の上に本を置いているなら机から働く垂直抗力、机から本に働く摩擦力や、本からもう片方の本に働いている力などである。

それらの力が働いているにも関わらず、2つの本とそれが乗っている机のどこを眺めても動いている物は1つもない。 動いている物が無いのだから、それらの物の間に働いている力は全て打ち消しあっていることになる。 本が2つあり、机の上に乗っているのだからいくつもの垂直抗力や摩擦力、重力などが働いているのに全てが打ち消しあっているということである。 これは果たして偶然だろうか。

全ての力が打ち消しあっているのだから、本や机に働いている全ての力に対して、それを打ち消す反対向きで同じ大きさの力が働いているということになる。 このような現象は身の回りのいたるところに見られる。 例えば本を山積みにしておいても、うまく積みさえすれば本は崩れずに積みあがって動くことなく止まっていられる。 これは全ての本から別の本に働いている垂直抗力や重力や摩擦力が打ち消しあっていることを意味する。 他にも歯車がぎっしり詰まった機会仕掛けも動力を入れなければ止まっている。 時計や自動車などの複雑な構造を持つ物も、動力がなければ止まったままでいられる。 それはその機械を作っているいくつもの部品1つ1つに働く重力や垂直抗力、摩擦力などが全て打ち消しあっていることを意味する。

このように、物に働いている力が全て打ち消しあっていれば物は動かないという法則から、多くの部品からできている複雑な物に力が働いていて、かつそれが止まっている場合に、それらの部品全てに働いている複雑な力の全てが打ち消しあっているという、ちょっと驚くべき事実が導かれる。 どんな複雑な物でも、部品が100個になろうが10000個になろうが、それが動いていないならその物の各部品に働いている力は打ち消し合っている。 これは偶然、物に働いている力が打ち消しあっていると考えることもできるが、本当にそんな偶然が日常のそこかしこに現れているとは信じがたい。 むしろ力とは本来このように、普通は打ち消しあうような性質を持っているのではないかと推論してみる。

それを確かめるために簡単な実験をしてみる。 例えば壁を手で押してみる。 そうすると、手に壁から押し返すような力を感じる。 自分の手で壁に向かって力をかけると、自分の手に壁から押し返すような力を感じるのである。 これは、壁から垂直抗力が自分の手に向かって働いているためである。 同じことを壁の立場から見ると、人が壁に力をかけてきたので、それを垂直抗力で押し返しているように感じているはずである。 壁は人の手から力を受けるのと同時に、人の手を垂直抗力で押し返しているのである。

ここには2つの力がある。 それは自分が壁にかけている手の力と、壁が手にかけている垂直抗力である。 自分の手で物に力をかけてその物を動かないように支えることで、その物に他にどのような力が働いているのかを知ることができるが、それはこのような、物が手にかける力を手で感じているのである。 今の場合は壁が手を押し返す垂直抗力である。 これはあくまでも、壁が手にかける力であり、手が壁にかけている力ではない。 つまり、自分が壁にどのような大きさの力をかけているのかは、自分では感じようが無いのである。 自分が感じることができるのは、壁が自分の手を押し返そうとする垂直抗力だけである。

ということで、物に力が働いているのにその物が止まっているなら、それらの力の全てが打ち消しあっている、という法則を使って物に働く力の大きさを測るためには暗黙の了解があって、自分の手に感じる押し返す力と自分が手で壁などを押すときの力が同じ大きさで反対向きの力になる、という仮定をしている。 もしこの仮定をしなければ、どのような力が物に働いているかを自分の手で物を支える時に感じる力の大きさで測るということができなくなる。 なぜなら自分の手に感じることができるのは、あくまでも物が自分の手を押し返す力であって、自分の手が物にかける力は物の方が感じるだけで自分は感じることができないからである。 自分が物にかけている力を直接感じることはできないので、もしかしたら自分の手に感じる力の倍とか10倍とかいう力を物にかけているということもあり得る。 自分の手に力を感じるときは、その力と同じ大きさで逆向きの力が物に働いている、という仮定があるから、自分の手を使って物に働いている力を測ることができるのである。

このように、自分が手を使って物に力をかければ、その物から垂直抗力や摩擦力など様々な押し返すような力を感じる。 その力の大きさは自分が物にかけた力の大きさと同じで、方向は逆向きになっている。 このような、自分が物に力をかければ、その物から押し返すような力を受ける、という現象はどんな場合も起こるように見える。 どんな場合にもこのような現象が起こるなら、これは力に関する法則である。 人が物に力をかけると、その物からかけたのと同じ大きさで反対向きの力を受けるのである。

この法則は例えばハの字型に組んだ2つの本や、積み上げた本、複雑な数多くの部品からできている機械などのような物にも同じように当てはまるはずである。 手が物に力をかけると、かけたのと同じ大きさで反対向きの力を感じるなら、物が物に力をかけるときも、その2つの物の間にはお互いに同じ大きさで反対向きの力が働いているはずである。 それはハの字型に本を組んで、片方の本を外して指で支えてみることで確かめることができる。 確かにどちらの本を指で支えても、同じような力で本を支えることができる。 本と本がお互いに支えあっているときにも、このようにお互いがお互いに同じ大きさで反対向きの力をかけているはずである。

このような、ある物が別の物に力をかけているなら、逆にその物からその力と同じ大きさで逆向きの力を受ける、という法則は作用反作用の法則と呼ばれている。 これは力に関する法則であり、この法則は物に力が働いているのにその物が動いていないなら、その物に働いている力は全て打ち消し合っている、という法則よりもさらに力に関する性質をより分かりやすく述べている。 物の動きや力を合計する、などといった考え方を必要とせず、力が物に働くときにその力が従う性質をそのまま述べている。 ある力が物に働いているなら、必ずそれと同じ大きさで逆向きの力が別の物に働いているのである。

ある物に注目して、その物が別の物に何か力を働かせている場合、その力を作用と呼び、その物が力を働かせている物から受ける同じ大きさで反対向きの力を反作用という。 作用と反作用は、ある物から見れば作用でも、相手側から見れば反作用であるといった様に、立場によって呼び方が変わる。 例えば机の上に本が置いてある場合、本には机から垂直抗力が働いている。 その垂直抗力が本に働いている重力を打ち消すから本は机の上で止まっていられる。 この場合、机から本に働いている垂直抗力を作用だとすると、その反作用が本から机に働いているはずである。 それは机からすると、本から机に働く垂直抗力になる。 本から机に働く垂直抗力は、机から本に働く垂直抗力と同じ大きさで反対向きなので、日常的な言葉で言えば本の分の重さが机にかかっているのである。 机の上に重い物を乗せると机まで重くなるのは誰でも知っている。 これは机の上に物を置いたから机の重さが増えたのではなく、机が物を支える垂直抗力の反作用を受けているためなのである。

物から物に垂直抗力が働いているときはその反作用として、同じ大きさで反対向きの力が働く。 物から物に摩擦力が働いているときも、同じように反作用が働く。 例えば手で何か物の表面をこすると、手はその物からの摩擦力を受ける。 手に摩擦力を感じているのだから、その反作用があって、それは手が物をこする力である。 物が軽くて動きやすい場合は、この、こする力によって動き出したりする。 つまり手で物をこすっている時、手に感じる摩擦力の他に物に反作用が働いているのである。

このように、身の回りの物の間に働く力にはすべて作用と反作用があり、反作用は作用と同じ大きさで逆向きの力である。 そうなっているはずなのだが、1つだけ例外に見える力がある。 それは重力である。 重力は物が地上にある間は常に働いている力である。 力が働いていれば反作用があるはずなのだが、そんな力はどこを探しても見当たらない。 例えば机の上に本が置いてあるとき、本には重力と机からの垂直抗力が働いている。 机からの垂直抗力には反作用があって、本が机を押し返す力になるのだが、本に働いている重力と同じ大きさで逆向きの力が他にあるかといえば、どこにもない様に見える。 机からの垂直抗力を作用とするとその反作用はあるのに、本に働いている重力の反作用が見つからない。

だから作用反作用の法則には穴があるように見える。 しかしこれにはちゃんとした理由があって、矛盾なく説明がつく。 というのは、作用反作用を考えるには何から何に力が働いているのかを考える必要があり、重力という力が何から働いているのかを考える必要があるからである。 重力が何と何の間に働いているのかが分かれば、その物と物の間にお互いに同じ大きさで反対向きの力が働いているかもしれず、そうなっていれば作用反作用の法則のつじつまが合うかもしれない。

そこで身の回りの物に働いている重力が何から働いている力なのかを考えると、これには非常に大きな発想の転換が必要なのだが、地球から働く力であることが分かる。 身の回りにある物に働いている重力は、地球がその物を引っ張っているのである。 そう言われても地球から何か糸が伸びていて、その物にからみ付いているわけでもないので、地球が物を引っ張ると言われても何のことかはよく分からない。 よく分からないのだが、そう考えるとつじつまが合うのである。 重力が地球がその物を引っ張る力なら、その反作用はその物が地球を引っ張る力になる。 重力が働いている物は、その重力と同じ大きさで反対向きの力で地球を引っ張っている。 物が地球を引っ張る力は普段は目にできないが、物の重さがどんどん重くなって、地球と同じぐらいの重さになればその影響が実際に見えるぐらいになる。 つまり、重力を地球が引っ張る力と考えるのは、単なるつじつま合わせの虚構ではなく、実際に物と地球は引っ張り合う性質があるのである。 詳しくは触れないが、この、引っ張る力は地球と物の間だけに働くのではなく、物と物の間に常に働くことが分かっている。 この、物と物が引っ張り合うという性質は、万有引力と呼ばれている。

このように作用反作用の法則は日常的な感覚からも正しいということが分かる法則である。 そして作用反作用の法則と慣性の法則から、力が働いている物を自分の手で支えて、かかっている力を打ち消して動き出さないようにするのに必要な力を見ることで、その物にどのような力が働いているのかを確かめることができることが分かる。 つまり、作用反作用の法則は、物に力が働いているのにその物が動き出さないなら、その物に働いている力は全て打ち消しあっている、という法則の代わりに使うことができる。

これで始めより洗練された運動の3法則が得られた。 それは、慣性の法則、運動方程式、作用反作用の法則の3つである。 これらの3つの法則さえ使えば物の運動は完全に理解することができる。 これらの法則を議論の前提として議論を進めていく理論体系をニュートン力学とか単に力学と呼び、慣性の法則はニュートン力学の第1法則、運動方程式はニュートン力学の第2法則、作用反作用の法則はニュートン力学の第3法則と呼ばれている。

6.1.3 具体例

物の運動を理解する

それではこれらの運動の3法則を様々な具体例に当てはめてみる。 まずは自由落下について考える。 自由落下とは、何でもいいが、物が重力によって下に落ちる運動のことである。

何でもいいので落としてもいい物を手にとって持ち上げ、それを空中で放してみて欲しい。 もちろんその物は下に落ちる。 当たり前の現象である。 この当たり前の現象が引き起こされる理由を、力学の法則から理解してみる。

まず、物を持って持ち上げている間、その物は止まっている。 手で支えているのだから当然である。 手で支えているというのは、重力を手から物にかけている力で打ち消していることになる。 手から物に力を作用させて、重力を打ち消している。 そして、重力を打ち消すために物にかけている力の反作用を手に感じている。 物には重力と手から作用する力とがかかっていて、その2つが打ち消しあうので力が全く働いていない状況と同じ状況になり、力が働かないのなら物の運動は変化しないので、始め止まっている物は手を放すまでずっと止まったままである。 ここには作用反作用の法則と慣性の法則が関係しており、それらの法則を当てはめることで矛盾なく運動の様子を理解できる。

次は支えていた手を放して物の支えを外してみる。 そうすると、手から働いていた物にかかっている重力を打ち消す力が消えるので、物には重力だけが働いていることになる。 物に力が働くと力の方向に加速するのだから、その物は重力の方向に向かって加速する。 つまり、落ちる。 あるいは、止まっていた物が下に向かって動き出す。 そして重力が働いている限りはどんどん下に向かって加速していく。 これはニュートン力学の第2法則から得られる結論である。

今の場合、手を放せば物が重力の方向、つまり下に加速することは見れば分かる。 しかし本当に物が落ちるに従ってどんどん速くなっているかどうかは、ちょっと見ただけではよく分からない。 そこで物を落とす高さを調節して、高い所から落としたときと低い所から落としたときの床にぶつかったときの音の大きさの違いを聞いてみる。 勢い良く床にぶつかったならより大きな音が出て、あまり勢い良くなく床にぶつかったなら小さな音が出るだろうから、これで床にぶつかったときの物の速さの違いを知ることができる。 実際にやってみると同じ物でも、高い所から落とすと床にぶつかって大きな音が出て、低い所から落としたらそれより小さな音が出ることが分かる。 これは高い所から落とした方が長い時間空中を落下するので、重力によってより多く加速され、床にぶつかる直前には低い所から落とした場合よりもずっと速くなっているためであると、第2法則から結論でき実際にやってみた結果を矛盾なく理解できる。

次は自由落下ではないが重力に関係する運動として、物を投げ上げる運動を考える。 話を簡単にするために、上といって完全に真上に向かって物を投げることにする。 物を投げ上げると、始めは勢いがあって上に昇って行くが、だんだんと遅くなってやがて下に落ちてくる。 この運動には減速や加速、進む向きの変化などが含まれていて、自由落下よりもは複雑な運動になっている。 このような運動も運動の3法則を使えば矛盾なく実際の運動の様子を理解することができる。

まず物を投げ上げるには物を手で持ってそれを勢いをつけて上に放り投げないといけない。 そのためには手から物にかかっている重力を打ち消すよりもさらに大きな力をかけなくてはならない。 なぜなら、重力と同じ大きさの力をかけただけでは物を支えることしかできず、その物を加速して勢いをつけることができないからである。 勢いをつけるためには、重力を打ち消してもさらに上向きの力が残るぐらいの大きさの力を物にかけなくてはいけない。 そのために手から物に強い力をかけなくてはならず、手はその力の反作用を受けるので、ただその物を支えていた時よりも強い力で押し返されるように感じる。

物は手からの力によって加速する。 重力を打ち消してさらに上向きの力が物に働いているのだから、その力が働いている限りはどんどん加速していく。 そして手の力によって物を十分加速させたら手を離す。 そうすると、その物は既に加速されていて、上向きに動いているので手を離してもひとりでに動いていく。 これは慣性の法則があるためである。 物は力が働いていないなら、元の運動を続ける。 今は物は上に向かって動いていたのだから、手を離してもやはり上に動き続ける。

しかし手を離した瞬間から手から働いていた、その物に働いている重力を打ち消す力が消えるので、物は重力によって下向きに加速し始める。 下向きに加速するのだが、今はすでに上向きある程度の速さで動いているので、この加速はどんどん上向きの速さを遅くする減速という形で物の運動に影響を与える。 手を離れた後、物は上に投げ上げられてどんどん上に上がっていくのだが、重力によって下に加速されるのでその速さはどんどん遅くなっていく。 そしてある所で完全に上向きの速さがなくなり、逆に下向きに落ち始める。 落ち始めたらあとは先ほど見た自由落下と同じように運動する。 これがニュートン力学の第2法則から期待される結果であり、実際に自分で物を投げ上げてみたときに見れる運動を矛盾なく説明する。

物を上に投げ上げるという運動は運動の3法則からはこのように理解される運動である。 実際に自分の手で本やペンなど、何でもいいので何か物を真上に投げ上げてみると、確かにこのような状況を自分の目で見ることができる。 手のひらの上でぽんぽんと物を投げ上げ、落ちてきた物を受け止めてみると、確かに手を離した瞬間から物が減速し始め、ある所で止まり、そこから自由落下して手のひらの上に戻ってくる様子が見られる。 これらの運動の間、物に働く重力の大きさは一定なので、手を離した瞬間の上向きの速さが速ければ速いほど、それを減速して自由落下させるのにかかる時間が長くなる。 つまり、高い所まで物が投げ上げられる。 これは勢いよく物を上に投げ上げれば投げ上げるほど、物は高くまで投げ上げられるということを意味する。 これは日常的に感じることができる性質である。 このように、日常の感覚で感じる物の運動の性質も、運動の3法則を使えばよく理解できるようになる。

次は少し毛色の違った運動について見てみる。 本やまな板などの平面に何か物を置いて、板の片側だけを持ち上げ斜面にして、どんどん片側だけを持ち上げてどんどん斜面の傾きの角度をきつくしていくとどうなるのかを見てみる。 実際にやってみると、斜面の角度がゆるいうちは物は動かずに斜面の上で止まったままだが、少しずつ角度をきつくしていくと、ある角度を超えたあたりで物は滑り出し斜面を下って下まで滑り落ちる。 この運動の中でどのような現象が起こっているのかを考えてみる。

まず水平な板の上に物が置いてある状況を考える。 今、物には重力がかかっており、板は水平だから板から物へ垂直抗力が働いている。 板から物へ働く作用の反作用が物から板へ働いているが、それは板を置いている物、例えば机や床が支えている。 もし板全体を手で支えているなら、手は板の重さと、物から板に働く、板が物を支える力の反作用を合わせた力を感じるはずであるが、それは今は考えないことにする。

そしてこの状況から板の片側だけを持ち上げていくと、板が傾いて板から物に働く垂直抗力の向きが変わる。 垂直抗力は斜面から垂直な方向に働くので、上方向とともに横方向にも力が働くことになる。 上方向の力は重力と打ち消しあうが、横方向の力は打ち消しあわない。 だから斜面の上の物は横に動き出しそうだが、物と板の間には摩擦力も働いているのですぐには動き出さない。 ちなみに斜面の上の物に働いている力をベクトルで書くと、さきほど運動の法則を考えたときのように力の方向を決めれば、(抗力(横)-摩擦,0,抗力(上)-重力-摩擦)という様に書ける。

今、斜面の上の物には重力と斜面からの垂直抗力と摩擦力が働いていて、それが全て打ち消しあっているので動き出さないで止まっている。 しかし板を持ち上げ斜面の傾きをどんどんきつくしていけば、垂直抗力の向きが変わり垂直抗力の横方向に向いている分の力が大きくなり、摩擦力ではそれを打ち消せなくなる。 だから板を持ち上げていくと、摩擦力が支えきれなくなる限界の角度で物は動き始める。 動き始めれば、物には力がかかっているのだから、その力によってどんどん加速していく。 だから動き始めた瞬間よりも斜面の下まで下り終えたときの方が、速さは速くなっているのが目で見て分かる。 このような物の運動も運動の3法則を当てはめて考えれば、物がそのような運動をする理由を説明し、理解することができる。

これまで、自由落下、物の投げ上げ、斜面を滑り落ちる運動という3つの場合について運動の3法則を当てはめ、どうしてそのような運動をするのか定性的な運動の性質について議論してきた。 運動の3法則によってこれらの運動は矛盾なく説明がつき、理解することができるのが分かってもらえたと思う。 これらの運動に限らず、身の回りの物の運動は全て運動の3法則によって理解できるので読者諸君も自分の興味をそそられる運動について、運動の3法則を当てはめどうしてそのような運動をするのか理由を考えてみると面白いかもしれない。

6.2 運動方程式の導出

6.2.1 運動を定量的に扱うために

場所を数値で表す

これまでは運動の3法則の定性的な性質について考えてきた。 これからはそれを定量的に表現していく。 定量的に表現するというのは数値を使って表すということで、数学を使うことができるようになるので定性的議論より厳密な議論ができるようになる。

まずは物の場所を数値を使って表すことを考える。 物が動いているというのは、物がある場所が変わるということである。 物のある場所が変わるから、物が動いているように見えるのである。 だから物の運動の法則を定量的に議論するには、物の場所を数値を使って表さないといけない。

そのための一番簡単な方法はものさしを使うことである。 ものさしというのはまっすぐな棒に目盛りをふったもので、その目盛りの数を数えることで距離を測るものである。 これを使って、ある長さを1として、その長さの何倍の長さと同じになるかで一般的な長さを表すのである。 ものさしがなければ、ただのまっすぐな棒でもいい。 その棒の長さを1として、その棒何個分の長さになるかによって、長さを数で表すことができる。

日常的な例では棒の代わりに歩幅を使って距離を表したりする。 ある所から違う場所までの距離を歩いて10歩と言って表したり、そこから2歩後ろに下がった所、などと言って場所を言い表したりする。 これは人の歩幅は大まかに言って一定なので、それを基準にして距離を測ることができるためである。 一定と言っても大まかな話でしかないので、厳密に距離を測ることはできないが、大まかな話をするのには感覚的に分かりやすいので便利である。 これから、歩幅を使って長さを測ってみる。 話を単純にするために、仮想的に歩幅は常に一定になるとする。

ある物が床に置かれているとき、その物がここからどれだけ離れているかを表すのに、そこまで歩いて何歩で行けるか、で表すことができる。 例えば今自分が立っている場所からある場所まで歩いて10歩で行けるのと、20歩かかるのとでは、距離は倍違う。 このように、そこまで行くのにかかる歩数を比べることで、そこが今いる場所からどれだけ離れているかを数値を使って表すことができる。 これからは、歩いて10歩かかる距離のことを距離10とか、20歩かかる距離のことを距離20とか言って表すようにする。 何歩の歩を省略するのである。 こうすることで、漠然とした広がり、長さ、遠い近いといった概念が数字で表された。 数字で5と言えば歩いて5歩の距離だし、20と言えば歩いて20歩の距離ということである。 遠くに見えるあの山などと言っても、それがどれくらいの距離にあるのかは分からないが、距離1000の場所にあるあの山、と言えば歩いて1000歩かかる距離にある山なのだとはっきりと分かる。 このように、数字を使って何かを表すことを定量的な議論などと言うのである。

さて、このように歩数を使うことで距離を数値で表すことができるようになった。 しかし、これだけでは物の場所を完全に表すことはできない。 というのは、物の場所というのはどれだけ離れているかに加え、どの方向に離れているかも重要だからである。 自分の周辺に物が置いてあるとしても、前に10歩、歩いた所に物が置いてあるのと、後ろに10歩、歩いた所に物が置いてあるのでは、物の場所はまったく違う。 だから物の場所を表すには、それがどれだけ離れているかと、どの方向に離れているか、が重要になる。

どの方向に離れているか、というのを表すのに、力の方向を表したときと同じように前後左右上下という方向を考える。 つまり、ただここから10歩の距離、といわずに、左に10歩の距離、とか前に20歩の距離、などと言えば距離に加えて方向まで合わせて表現できる。 そうすれば、物がどれだけの距離、どの方向に離れているかが分かるので、それで物の場所を完全に表すことができる。

しかし、これだと斜めに物が置かれている場合に、それをどう表せばいいのかという疑問がある。 前に10歩とか右に10歩とか言うだけでは、右斜め前に10歩離れた場所に物が置かれている場合にそれをどう表していいのか困る。 斜めに歩くと、その方向を表すのが難しくなるので、一度に直接そこに向かうのはあきらめて、まずは右に歩き、その物の真横に来たら向きを変えて前に歩きその物の場所まで歩けば、右に何歩、前に何歩あるいた場所、という言い方で右斜め前に置かれた物の場所を表すことができる。 斜めに歩いて一度にまっすぐそこに向かうのと、一度右に歩いてそれから前に歩くのとでは歩く歩数が変わってくる。 右に歩いてから前に歩いた方が、寄り道しているのだから当然、斜めに歩いて直接そこに向かうよりも余計に歩かなくてはならない。 だから、斜めに歩いて20歩行った所と右に10歩、前に10歩行った所とで、同じ20歩なのだから距離も同じだろう、などといった単純な話はできなくなる。 しかし、今考えているのは物の置かれている場所を表す表現方法であって、そこまでの距離が分かりやすいかどうかはひとまず置いておくことにする。

このような方法で場所を表せば、前に5歩行った場所とか、右に8歩、さらに後ろに7歩行った場所とか、左に10歩、さらに前に2歩、さらに上に3歩行った場所などといった様に場所を表すことができる。 上に3歩歩くと行っても、空中を歩くわけにはいかないので、どういうことなのか分からないが、1歩分の長さというのは分かるので、その長さ分上に上がった高さと考える。 同じように下へ下がった距離も考えることができる。 これを右に10歩、前に5歩、上に3歩、などといった書き方ではなく、力をベクトルで書いたときと同じようなやりかたで、

(右,前,上)=(10,5,3)

といった様に書くことにする。 こうすればいちいち日本語で右へ何歩、上へ何歩などと書く必要がなくなり、すっきり物の場所を数値で表せるようになる。

この表し方なら、右に10歩行った場所は(10,0,0)ということになるし、前に10歩行った場所は(0,10,0)ということになる。 右に10歩、前に10歩行った場所は(10,10,0)と表される。 もし、場所と場所の足し算というのを力の足し算と同じように定義すると、

(10,0,0)+(0,10,0)=(10,10,0)

となって、右に10歩行った場所と前に10歩行った場所を足し算すると右に10歩、歩いた後に前に10歩行った場所と同じ場所を表すようになる。 場所と場所を足すというのは、その場所に行った後で、そこまで歩いてきたということを忘れて今立っている場所がさっきまで立っていた場所だと思って、また別の場所に向かうという意味を持つ。 これはとても自然なことで、前に10歩というのは、今居る場所から前に10歩ということなのだから、右に10歩行った後に前に10歩というのは、今居る場所から右に10歩行き、その後でさっき居た場所から歩いてきて今居る、この場所から前に10歩行くので(10,0,0)と(0,10,0)を足すと(10,10,0)になるのである。

このように足し算を定義すると、都合のいいことがもう1つある。 それは右に歩くのと左に歩くのとで片方を正の方向とすればもう片方を負の方向と考えることができることである。 例えば右に10歩行った後で左に10歩行けば元の場所に戻ってくる。 元の場所というのは1歩も動いていない場所なのだから(0,0,0)と表すことができる。 そして、右に10歩行った後で左に10歩行くというのは、

(10,0,0)+(左に10歩歩くことを表すベクトル)=(0,0,0)

と表すことができる。 左に10歩歩くことを表すベクトルがどんなベクトルになるのかはまだ分からないが、とにかくこう表すことができる。 そして、これは左に10歩行った先の場所を(-10,0,0)と表せば今定義した場所の足し算の計算方法でつじつまが合う。 つまり、右に10歩行った後で左に10歩行くというのは、

(10,0,0)+(-10,0,0)=(0,0,0)

と表されるのである。 これは力をベクトルで表したときと同じで、右を正の向きとしたら左は負の向きになるということである。 同じように前と上を正の向きにしたら後ろと下が負の向きになる。

さらに、右に10歩行って、そこからさらに同じ歩数行った場所という場所を考えることができる。 これは最初に歩いた歩数の倍の距離にある場所を表している。 このような場所を表すために、力のときと同じように実数倍という計算を定義すると、

2・(10,0,0)=(20,0,0)

となる。 このように実数倍を定義できる。

このように、場所と場所の足し算や場所の実数倍を定義できるので場所はベクトルである。 それは第4章で出てきたベクトルの定義を、この足し算と実数倍が満たすことを確かめれば分かる。 ここではいちいち確かめないが、気になる人は自分で確かめてみるといいかもしれない。

このように、物の場所はベクトルとして数学的に扱うことができる。 物理では物の場所のことを、同じことだが位置と呼ぶことが多い。 今は感覚的に分かりやすくするために歩幅を基準にし、1歩歩いた長さを1としているが、普通に使われるのはメートルという単位でmと書いて表す。 1mで1メートルということで、1m定規の長さのことである。 人によって違う歩幅の代わりに、万人に共通の定規を作ってそれを基準に長さを測るのが便利である。 このように基準を決めればその何倍の距離、という言い方で距離を数値で表し、それに方向の概念をつけて位置をベクトルとして表すことができる。 以後、特別に断らない限りは長さの単位はメートルであるとする。 位置のベクトルのことを特別に位置ベクトルと呼ぶことがある。

座標系

このように物の位置を表すのに前後左右上下の方向を考え、その方向に何メートル進んだ場所にあるかで物の位置を表すと、位置をベクトルとして考えることができるのだが、これを書き表すのにいちいち前後左右上下とは言わないのが普通である。 前後左右上下について方向を考えているなら、(右,前,上)といった様にベクトルを表すことができるが、普通はこうは書かず、(x,y,z)という様に書く。 これは、xとyが前後左右にどれだけ離れているかを表し、zが上下の距離、つまり高さを表しているのである。 xとyとで、どちらが前後を表しどちらが左右を表すか、前と後ろでどちらが正の向きになるか、右と左でどちらが正の向きになるかなどは場合によるが、普通はzは高さを表し上が正の向きになる。

xやyがどの向きを表しているとしても、それは普通は前後や左右などの横向きの方向になり、それらの向きをx方向とかy方向とか呼ぶ。 それらの方向は、x方向はこの向き、y方向はこの向き、といった様に、いちいち自分でどんな方向になるのか決めないといけない。 例えばx方向は自分からみて前の方向で、y方向は自分から見て右の方向だと決める、といった様にきちんと定義してさえおけば自分で勝手に決めて使っていい。 なので物の位置を、

(x,y,z)=(3,4,5)

という様に表したら、これはxが表す方向に3メートル、yが表す方向に4メートル、普通は上だが、zが表す方向に5メートル行った場所を表している。 この、x方向にどれだけ行った場所かを表す数は位置ベクトルのx成分と呼ぶ。 y方向にどれだけ行った場所かを表す数はy成分だし、z方向ならz成分と呼ぶ。 xやyやzなどの中のどの方向かを言う必要がない場合は単に成分と呼ぶ。 普通、高さを測る基準点は普通は地面を0として、そこからどれだけ離れているかをz成分で表す。 一般的に位置ベクトルをxで表す。 これは、

x=(x,y,z)

ということで、いちいちx成分やy成分やz成分を書くのが面倒なときに、3つをまとめて短く書くのである。 xというのにxという記号を使っていて、これはx成分を表すxと同じ記号で紛らわしいが、ベクトルを表すときは矢印がついているのに対して、成分を表すときはついていないので、それで見分けることができる。 どうしても紛らわしいと感じるときはrなどと書いたりもする。 今後もベクトルの成分を具体的に考える必要がない場合はこのような省略をする。

このように物の位置はベクトルとして表される。 それは、自分の立っている場所から前後左右上下に何歩離れた場所にあるのか、あるいは何メートル離れた場所にあるのか、を表す。 しかし、物の場所を表すのに、必ず自分の立っている場所を基準にする必要はない。 誰か別の人の立っている場所を基準にしてもいいし、何か目立つ目印の場所を基準にしてもいい。 そうやって基準になる物や人を決めて、そこから前後左右上下にどれだけ離れているかで物の位置を表してもいいはずである。

このように、物の位置というのは、どの基準から見た位置なのかということが重要になってくる。 例えば自分の前の向きをy方向だとすると、自分の前に10メートル行った所に物が置いてあるとき、それを自分の前5メートルの場所にいる人が見たらその人からしたら、その人の前に5メートル行った所にその物は置いてあるように見えるはずである。 だから自分にとってその物の位置が(0,10,0)と表されても、別の人にとっては(0,5,0)と表されることがある。 このように、物の位置というのはどこを基準にするかで変わってくる。

このような物の位置を測る基準になる場所、つまり基準点を変えるという考え方は物の位置を定量的に扱うときに重要になってくる。 あらかじめある場所を基準点にして複数の物の位置を表しておいて、その後で別の場所を基準点に変えて考えた方がより話が簡単になったりすることがあるからである。 物の位置を測る基準点を変えるためには、まずはどこを新しい基準点にするのかを決めなくてはならない。

例えば自分の立っている所を基準点にしてそれを(0,0,0)と表し、そこから測って(0,10,0)に物があるとする。 同じ物を自分の立っている場所から(0,6,0)にいる人が見たら、その人から見たら(0,4,0)にあるように見えているはずである。 これはなぜかと言えば、自分の前10メートルの場所にある物を自分の前6メートルにいる人が見たら、差し引きでその人からは4メートル先に見えているはずだからである。 これは何をしているのかと言うと、ベクトルの引き算をしているのである。 というのは、

(0,10,0)-(0,6,0)=(0,4,0)

という計算をしているのである。 これは、今の基準点から測った位置から新しい基準点の位置を引き算しているのである。

これはどんな物の位置を考えてもどんな新しい基準点を考えても、同じように引き算をすれば新しい基準点から測った位置が得られる。 なぜなら、新しい基準点からある位置まで歩いても、古い基準点で考えて、新しい基準点まで歩いた後にその位置まで歩いても、どちらも同じ場所にたどり着くからである。 これはどういうことかというと、例えば左に10歩歩いてから右に20歩歩けば、始めに居た位置から右に10歩歩いた位置にくるが、別に寄り道せずに直接右に10歩行っても全く同じ位置に来る。 同じように、ある基準点から測った位置がxという位置になる場合、新しい基準点の位置がx0であれば、

x0+x'=x

となるようなx'が存在するということである。 このx'というベクトルは、新しい基準点からxまでの距離ということになる。 新しい基準点からxまでの距離というのは、つまり新しい基準点から測ったxの位置のことである。 なので、

x'=x-x0

を計算すれば、新しい基準点から測った物の位置が分かるのである。 つまり、一般的に新しい基準点を(x0,y0,z0)と表すと、古い基準点から測って(x,y,z)で表される位置は、

(x',y',z')=(x,y,z)-(x0,y0,z0)

=(x-x0,y-y0,z-z0)

という(x',y',z')で表されるようになる。 このように物の位置の基準点を変えて、新しい基準点から測った距離を考えることができる。 どこを基準点にして、どの方向にx方向やy方向やz方向を決めるかでベクトルの中の数字がどのような場所を表しているのかが変わる。 だから、基準点と方向をどう決めているかの情報を合わせて、座標とか座標系とか呼ぶ。 そして、今やったような基準点を変えるのを座標の取りかえとか座標系を変えるとか座標を変換するとか、座標変換とか呼ぶ。 座標変換にはx方向などの方向を別の方向に変えたりする場合もあるのだが、これ以上はここでは解説しないでおく。

このように物の位置は位置ベクトルによって定量的に表すことができる。 しかし今の目的は物の動きを定量的に表すことなのだから、ここに何か動きに関係する概念を取り入れたい。 物が動くというのは、時間が経つに従って物の場所が変わっていくということである。 物の場所が時間に従って変わるのだから、これは位置ベクトルが時間の関数になっていることを意味する。

それを数値を使って表すためには、まずは時間を定量的に表す必要があるのだが、これは日常的に使う時間の測り方と同じようにすれば十分である。 時間を測るには時計を使って1秒、2秒と測っていき、60秒で1分、60分で1時間になる。 時間を測るにもある基準になる時刻というのを決めて、そこから何秒経ったのか、によって時刻を定量的に表すことができる。 例えば手に持った物を落とす時は、手を放して物が落ち始めた瞬間を基準にして、その瞬間から何秒経ったかで時間を表すことができる。 このように時間を測るとして、ある瞬間を基準点にしてそこから何秒経ったのかをtで表し、

x(t)=(t,t2,0)

のような場合を考えることができる。 これは位置ベクトルのx成分はtになり、y成分はt2になるという意味である。 基準になる瞬間から1秒後の位置ベクトルは、

x(1)=(1,12,0)

=(1,1,0)

となる。 また、基準になる瞬間から3秒後の位置ベクトルは、

x(3)=(3,32,0)

=(3,9,0)

となる。 このようにある時刻に対して物の位置が1つ対応するので、位置が時間の関数で表されているのが分かる。 また、時間が経つに従って物の位置は変わっていくのだから、これは物の動きを表しているのも分かる。 これをもう少し分かりやすく書くために、

x(t)=(x,y,0)

と書けば、今の物の運動はx=tで、かつy=t2という場合である。 これは、逆に考えればt=xということで、y=t2という関係と合わせて考えると、

y=t2

=x2

ということである。 これはy=x2という関数だと考えることができ、x方向とy方向を普通のグラフのx軸とy軸だと考えると、これは2次関数のグラフになる。 つまり、この運動は2次関数のグラフの上を物が動いていく運動になる。 このように物の運動を表すためには位置ベクトルを時間の関数と考えるといい。

物の動きを数値で表す

物の位置を数値で表せるようになったら、次は位置の変化を表す方法を考えていく。 なぜなら物が動くとは物が位置を変えていく様子のことだからである。

物が動いているなら物はある速さで動いているということである。 目で見ても物の動きが速い、遅いという感覚を感じることはできる。 それは自分の中で勝手に決めている一定の間隔の時間の間に、長い距離を動くか短いの距離しか動かないかの違いからくる。

さて、このように時間を定量的に表すことにして、動いている物がある時刻に位置xにあったとする。 その後、1秒とか2秒とかいった、ある間隔の時間が経ったとする。 そうすると、その時間の間に物は動いているのだから、その物のある位置が変わる。 動いた後の位置をx'と表す。 そうすると、その時間の間に動いた距離は、それをΔxと表すと、

Δx=x'-x

ということになる。 Δというのは、何かの差とか変化の量を表すのによく使われる記号で、Δという変数とxというベクトルの掛け算ではなく、Δxで表される1つのベクトルである。 Δxがベクトルになるのは、x'もxも物の位置を表すベクトルなのだから、その引き算もベクトルになるためである。 これは今考えているある間隔の時間の間にこの物が動いた距離を表している。 なので、xを基準に考えれば、そこからΔx動いた場所がx'ということになる。 これを数式で表せば、

x'=x+Δx

となる。 このΔxを、物がその距離を動くのにかかった時間で割り算してみる。 物がΔxだけ動くのにかかった時間をΔtと書くと、

v=Δx/Δt

=[x'-x]/Δt

となって、Δxはベクトルで、Δtは1秒とか2秒とかいう時間の間隔で、つまりは数なのでvはベクトルの実数倍なのだからベクトルになる。 このvというベクトルのことを速度とか平均の速度とか言う。 平均の速度というのはある一定の時間の間にどれだけ物が動いたのかを表すベクトルである。 例えば一定の時間として10秒という時間を考えれば、10秒の間に物がどれだけ動いたかを表すベクトルである。 速度を測っている10秒の間、その物はずっと一定の速さで動いているわけではなく、ちょっと速くなったりちょっと遅くなったりするかもしれない。 しかしそれでも、ある時間にどこにあったのかを調べ、その10秒後にどこにあるのかを調べて、その間の距離を10で割れば、その10秒間の間の運動の仕方を平均したらその速さで動いていたという、平均の速度を計算できる。 だからvは平均の速度と呼ばれるのである。

さて、平均の速度はある時間の間隔の間に物がどれだけ動いたかを測り、それを動くのにかかった時間の数で割ることで、その時間の間隔における平均の速さを出すものである。 例えばある時間の間隔として1時間を考え、ある人が街をぶらぶら歩いているときの速度を考える。 話を単純にするためにきちんと目的地をもって、そこを目指して歩いているとする。 そうは言っても街を歩いているのだから、まっすぐ歩いたり立ち止まったり、時にはさっき通り過ぎた喫茶店で休もうと思って来た道を引き返したりする。 そうやってうろちょろ街を歩いていても、1時間の間にどれだけ進んだかが分かれば、例えば1時間で全体の道のりの3分の1の距離を進んだということが分かれば、平均して考えれば3時間ほどで目的地につくことが予測できる。 このように平均の速度を考えると、大まかではあっても、物の運動の性質について理解できる。

しかし、これでは大まかな議論しかできない。 1時間の間にその人は行ったり来たりしているのだから、1秒の間の平均の速さを考えれば、1時間という長い時間の間隔で測った平均の速さよりもより正確にその人の動きの特徴を理解することができる。 なら1秒よりも0.1秒の間隔で平均の速さを測ればもっと正確になるのではないかと考えられる。 この調子でどんどん平均の速さを測る間隔を短くしていけば、どんどん正確にその人の動き方の特徴を理解できるようになると考えられる。 そこで、平均の速さを計算する時間の間隔をどんどん短くしていって0に近づける極限について考えてみる。 つまり、

v=lim [x'-x]/dt

を考えるのである。 limはdt→0の極限をとることを表している。 これはxが時間の関数として分かっている時、つまり物がどの時刻にどこにあるのかが分かっている場合には、それをx(t)と書けば、

v(t)=lim [x(t+dt)-x(t)]/dt

となって、これは第5章で出てきた微分の定義そのものである。 つまり、速度というのは物の位置を時間の関数だと考えれば、その導関数で表されるのである。 導関数も時間の関数になる。 このような、位置の関数の導関数として表される速度を瞬間の速度とか、単に速度と呼ぶ。 普通、単に速度と言う時は瞬間の速度のことを言っている。

速度はベクトルである。 これは何を意味するかというと、力や位置のように向きが重要な意味を持つということである。 速度と言うと動く方向まで含めて言っている。 だから、同じ時間の間に同じ距離を進んでも、前に進んでいるのと後ろに進んでいるのとでは速度は違う。

例えば物がある一定の時間の間に(0,0,0)から(1,0,0)に動いたとして、その平均の速度を計算すれば正の速度が得られるが、(0,0,0)から(-1,0,0)に動いたとして平均の速度を計算したら負の速度が得られる。 このように、同じ距離を動いても動く先が異なれば速度は変わってくる。 もし動く方向は問わないで、どれくらいの時間の間にどれくらいの距離を動くかを言い表したい場合は、物の動く速さとか単に速さと言う。 速さというのは日常的に使う物の動きの速い遅いのことで、普段はあまり気にしないだろうが物理の言葉としてはこの2つの言葉には厳密な違いがあるので気をつけて欲しい。

このように瞬間の速度を数値で表すことができるようになると、慣性の法則を定性的に表すことができるようになる。 慣性の法則は、物に力が働いていないならその物は元の運動を続ける、というものだった。 これを定量的に数値を使って表現すれば、物に力が働いていないなら、vは一定になる、となる。 このように、物の運動を定量的に表すことで運動の法則を定量的に扱うことができるようになる。

慣性の法則を定量的に表したので次は第2法則を定量的に表したいのだが、それは少し話が長くなるので先に作用反作用の法則を定量的に表しておく。 作用反作用の法則は、ある物が別の物に力を働かせているなら、その物から同じ大きさで逆向きの力を受けるという法則だった。 これを定量的にベクトルを使って書くと、ある物から別の物に力Fが働いているなら、その物から-Fの力を受ける、となる。 同じ大きさで逆向きの力というのは、元の力に-1を掛けたものになるからである。

6.2.2 運動方程式の導出

未来を予言する式

次はニュートン力学の第2法則である運動方程式を定量的に表現していく。 ニュートンの第2法則は、物に力が働くとその物は力の方向に加速する、というものである。 これを定量的に表現することで物の運動を数学的に扱うことができるようになり、物がどのような運動をするかについて厳密な議論ができるようになる。

第2法則は力と加速の関係について触れている法則である。 物が加速するというのは、速度が速くなるということである。 つまりv(t)の時間変化について触れている法則である。

それでは力がv(t)をどのように変化させるのかを考えていく。 まず物に力が働いたときの加速の仕方は物の速度には影響されず、物が止まっていても動いていても同じように加速することを思い出して欲しい。 そうすると、第2法則によるv(t)の変化の仕方は、物の速度には関係しないで、力だけが関係してくることが分かる。

さらに、物の速度の変化を物の位置の変化を考えたときと同じように考えることもできる。 ある時間の幅を考えて、ある時刻に物がvという速度で動いていて、力が働いてその物が加速しv'という速度に変わったとする。 そうすると、その力によってその物がその時間の間に加速した分の速度は、

Δv=v'-v

ということになる。 このΔvが、今考えている時間の間に加速した分である。 これを平均の速度を考えたときと同じように、時間の幅Δtで割れば、

a=Δv/Δt

=[v'-v]/Δt

となって、これは平均の加速度と呼ばれている。 速度が物の動きの速さを表すように、加速度はどれだけ物が加速したかを表すベクトルである。 速度のときに瞬間の速度を定義したのと同じように、瞬間の加速度というものを微分を使って定義すれば、

a(t)=lim [v(t+dt)-v(t)]/dt

となる。 limはdt→0の極限を表している。 これはv(t)の導関数であり、v(t)がx(t)の導関数であることを考えればa(t)はx(t)の2階の導関数ということになる。 つまり、

a(t)=d[v(t)]/dt

=d2[x(t)]/dt2

ということである。 この、加速度が力となんらかの関係にあるというのが、第2法則の内容である。 その関係さえ分かれば第2法則を定量的に表現したことになり、運動方程式が得られる。

運動方程式を得るためには力と加速度の関係について、より詳しく調べなくてはならない。 そのために身の回りにある物を使って実際にいろいろとやってみて、より定量的に力と加速度の関係を調べる。

まずは物にかける力の大きさと加速度の関係を調べてみる。 物に力をかけると言っても、大きな力をかけるか小さな力をかけるかは自由である。 何でもいいから物を机なり床なりの上に置き、それを横から押してみる。 押す力の強さを加減して、弱く押したり強く押したりしてみる。 そうすると、強い力で押した方が物は勢い良く動き出すし、弱い力で押しただけではあまり勢い良く動かないことがわかる。

次は身の回りから様々な物を集めてきて、それをやはり横から押すのだが、今度はできるだけ同じぐらいの大きさの力で押してみる。 そうすると物によって勢い良く動き出したり、あまり勢い良く動かなかったりする。 その違いがどこから来るのかを考えると、どうにも重い物は動きにくく、軽い物は動きやすい傾向があるように見える。 例えば空のコップと中に水がたっぷり入ったコップとでは、水が入っている方が同じ力で押しても動きにくい。 違いは何かと言えば中に水が入っているかどうかで、つまり重さの違いである。

これらの観察結果から単純に考えると、もしかしたら加速度は力の大きさに比例し、物の重さに反比例するのではないか、と推測できる。 つまり、強い力で物を押せばより速く加速されるし、ちょっとの力でしか押さなければ少ししか加速されない。 また、同じ力で押しても重い物はなかなか加速されないし、軽い物は簡単に加速されるということである。 それを式に書いてみると、F(t)でその物に働いている力を表せば、

m・d2[x(t)]/dt2=F(t)

となる。 この式のd2[x(t)]/dt2は加速度の定義そのもので、mは物の重さを表している。 そしてmと加速度を掛ければ、その物に働いている力と同じになる。 加速度をa(t)を使って書けば、

m・a(t)=F(t)

とも書ける。 単に加速度が位置の2階の導関数であることを省略して書いただけで方程式の中身は何も変わっていない。 これらの式がニュートン力学の第2法則を定量的に表したもので、運動方程式と呼ばれている。

それではこの式が実際に今調べた物に働く力と加速度の関係をよく表していることを確かめよう。 そのためには運動方程式をmで割り算して、加速度の前にかかっているmを消してしまうといい。 つまり、

a(t)=F(t)/m

と書くのである。 こうなっていれば、物に強い力が働いていればその物の加速度が大きくなり、弱い力しか働いていなければ加速度も小さくなるということがよく分かる。 また同じ力が働いているなら、mが大きくなれば加速度は小さくなり、小さければ加速度は大きくなるという性質も分かる。 ちなみに物の重さを表すmという数は、今の場合特別に質量と呼ばれる。 これは、加速のしにくさ、つまり慣性の源になる数で、それを特別に注目し強調したいときは慣性質量と呼ぶ。 質量は重さとは若干違った概念なのだが、詳しくは後で触れる。

こうして第2法則が定量的に表され、運動方程式が得られた。 これと慣性の法則、作用反作用の法則で力学の法則はすべてであり、これらの法則を使えば身の回りにある物の運動は全て理解できるし説明できるようになる。

6.2.3 運動方程式の意味

預言者になるために

これまでで運動の3法則を全て定量的に表現することができた。 おさらいすると、第1法則は力が働いていないときはvが一定になる、第2法則はm・a(t)=F(t)、第3法則はFという力を別の物にかければ-Fという力をその物から受ける、というものだった。 これからこれらの運動の法則を具体的な運動に当てはめて、その運動の性質を深く理解していくのだが、その前に運動方程式が意味することについて説明しておく。

運動方程式は力と加速度の間の関係について触れている法則である。 運動の法則の中で加速について触れているのは運動方程式だけなので、物が加速するなら必ずこの方程式に従う加速をする。 もし物が加速しなければ、慣性の法則から物は元の運動を続けるだけなので運動に変化はなく、ずっと止まっているなり同じ向きに動き続けるなりするだけで何も面白いことは起こらない。 物が運動するというのは物が動き回るということで、速くなったり遅くなったりする加速が重要なのであり、そのために運動を説明する方程式というわけで運動方程式という名前がついているのである。

運動方程式は物に力が働くと物は加速することを言っている。 これは日常の感覚からも正しいと分かる。 なぜなら、止まっている物を押せば物は動き出し、動き出しているということは加速しているからである。 しかし、運動方程式で言っているのは限り無く小さな時間の幅における加速である。 速度の微分を考えているのだから、限り無く小さな時間の幅における速度の変化を考えていることになるからである。

限り無く小さな時間の幅といってもよく分からないので、0.1秒とか0.001秒ぐらいの短い時間の幅を取って考える。 物に力が働いているなら、その物は加速する。 どれくらい加速するかというと、運動方程式にあるように力に比例して質量に反比例した加速である。 運動方程式は本当は限り無く小さな時間の幅の間に物が加速すると言っているのだが、分かりにくいので0.001秒ぐらいの短い時間の幅の間に物が加速すると考える。

短い時間の幅の間に物が力を受ければ、物はその力の方向にちょっと加速する。 0.001秒で力をかけるのをやめれば、物はちょっとしか加速しないが、普通は1秒とか2秒とかある程度の長さの時間、力をかけ続ける。 1秒の間力をかけ続ければ、0.001秒の間に起こる加速を1000回繰り返した合計の加速を受ける事になる。 このように、ちょっとの加速を積み重ねて目に見える加速が生まれるのである。 運動方程式はこの繰り返し、積み重ねを限り無く小さな時間の幅で考えることを意味する。 限り無く小さな幅の足し算といえば積分である。 つまり運動方程式を積分することで、ある一定の時間の間に物が受ける加速を計算することができるということである。 このように運動方程式を使うことで物がどのような加速を受けるかが分かり、どのような加速を受けるかが分かればその時の速度が分かるのだから物がどのような運動をするのかが分かる。

運動方程式を使えば物がどのように運動するのかが分かるのだが、これは物凄く大きな意味を持っている。 それは、物に働いている力が完全に分かれば、物がどのような加速をするのかが完全に分かるということである。 これは物がどのような速度で動くのかが完全に分かるということで、物の運動の未来を予測することができることを意味している。

物にいつどのような力が働いているかは様々な実験を通して、どんな時にどんな力が働くのかを調べ上げればあらかじめ予測がつく。 例えば斜面に置かれた球など、まだその物を動かしてはいないが、その物に今後どのような力が働くかが分かっている状況はある。 そういった場合、実際にその物を動かしてみる前に運動方程式によってその物がどのような加速を受けるかを計算し、速度を計算し、どのような位置を動いていくかを計算することができる。 そして実際にその物を動かしてみれば、あらかじめ計算した通りの位置を通って物が動いていくことが分かる。

まだ動き出していない物についてなんらかの計算をし、この物は今後このような位置を通って動くと宣言しておいて、実際にその物を動かしてみたら宣言と全く同じように動くのである。 これは未来を予言したことになる。 先のことは分からない、未来なんて誰にも予測できないと思うかもしれないが、限定的な場面に限ってはいるが実際に未来を予測するこができたことになる。 これは物凄く劇的なことである。 あなたも、かつて予言の書をしたためたという預言者と同じ立場に立つことができる。 運動方程式を解くことによってあなたも予言の書を書くことができるのである。 これが運動方程式の持つ非常に重要な意味である。

6.3 運動方程式の性質

6.3.1 決定論

微分方程式には何か解があるのだから、運動が決定論になっていること。

6.3.2 線形性

運動方程式の解と別の解を足すとそれも解になること。

6.3.3 対称性

時間対称性など。

6.4 運動方程式の解

6.4.1 等加速度運動

一般的な解

これから具体的な力について、その力が働いている物がどのような運動をするかを運動方程式を解いて調べてみる。 まず始めに運動している間に働く力が変わらず、常に一定の力が働く運動について調べてみる。 そのような運動を等加速度運動と呼ぶ。

今考えている運動は物に常に一定の力が働いているのだから、その力をFと書けば、運動方程式は、

m・d2[x(t)]/dt2=F

となる。 この微分方程式を解きさえすれば、この力によって物がどのような運動をするのかが分かる。 まずはこの微分方程式のx成分だけを考えて、

m・d2[x(t)]/dt2=Fx

となるので、この微分方程式を解く。 まずは加速度の前に掛かっているmが邪魔なので、割り算をしておくと、

1/m・m・d2[x(t)]/dt2=d2[x(t)]/dt2

=Fx/m

となるので、これはx(t)は2度微分して定数になる関数であることを表している。 このような関数は既に分かっていて、

x(t)=Fx・t2/2m+Cx・t+Cx'

となる。 実際に積分を実行すると、変数がtなのだから、積分で使う変数はsで表して、

tc[d2[x(s)]/ds2]・ds=∫tcFx/m・ds

=Fx・t/m+Cx

となる。 2階の導関数を積分すれば1階の導関数に戻るのでこれは、

d[x(t)]/dt=Fx・t/m+Cx

ということである。 これをさらに積分すれば欲しい関数が得られる。 実際やってみると、

tc[d[x(s)]/ds]・ds=∫tc[Fx・s/m+Cx]・ds

=Fx・t/2m+Cx・t+Cx'

となる。 このx(t)を2度微分すれば元の微分方程式を満たすことは簡単に確かめることができる。 よってこの微分方程式の解は、

x(t)=Fx・t2/2m+Cx・t+Cx'

である。 同じことをy成分とz成分についてやれば、元の運動方程式の解は、

x(t)=(Fx・t2/2m+Cx・t+Cx',Fy・t2/2m+Cy・t+Cy',Fz・t2/2m+Cz・t+Cz')

=(Fxt2/2m,Fyt2/2m,Fzt2/2m)+(Cxt,Cyt,Czt)+(Cx',Cy',Cz')
=(Fx,Fy,Fz)・t2/2m+(Cx,Cy,Cz)・t+(Cx',Cy',Cz')
=Ft2/2m+Ct+C'

となる。 C=(Cx,Cy,Cz)、C'=(Cx',Cy',Cz')と表した。 一定の力が物に働いている場合、その物の位置は時間の2次関数になって変化していくのである。 しかし、これでは積分定数が入ったままなので具体的に位置を決定することはできない。 これは、積分するときに積分を始める基準になる点をどこにするかを自由に決めることができるからである。 基準は積分を計算する人が勝手に決めるものなので、それがあたかも変数であるかのように微分方程式の解に入ってくる。

積分定数を消して実際に現実の物の運動を表す運動方程式の解を得るためには、ある時刻にその物がどこにあって、どんな速度で動いていたかが分からないといけない。 なぜなら、もしもある時刻t0にその物がx0=(x0,y0,z0)にあり、v0=(v0x,v0y,v0z)という速度で動いていたとすると、今求めた運動方程式の解から、

x(t0)=Ft02/2m+Ct0+C'

=x0

ということになる。 この式からC'がどんなベクトルになるのかを求めることができて、

C'=x0-Ft02/2m-Ct0

となる。 これをさっき求めた運動方程式の解と合わせると、

x(t)=Ft2/2m+Ct+C'

=Ft2/2m+Ct+x0-Ft02/2m-Ct0
=F(t2-t02)/2m+C(t-t0)+x0

となる。 しかし、これではまだCが積分定数として残ったままであるので、これを消すためにはこの式を微分して速度を考えて、

v(t)=dx(t)/dt

=d[F(t2-t02)/2m+C(t-t0)+x0]/dt
=Ft/m+C

となるが、速度はt0の時刻ではこれがv0=(v0x,v0y,v0z)になることは分かっているので、

v(t0)=Ft0/m+C

=v0

ということで、これからCがどうなるのかが分かって、

C=v0-Ft0/m

となるので、これを微分する前に式と合わせて、

x(t)=F(t2-t02)/2m+C(t-t0)+x0

=F(t2-t02)/2m+(v0-Ft0/m)・(t-t0)+x0
=F(t2-t02)/2m+v0(t-t0)-Ft0/m・(t-t0)+x0
=F(t2-t02)/2m+v0(t-t0)-Ft0/m・(t-t0)+x0
=F(t2-2t0・(t-t0)-t02)/2m+v0(t-t0)+x0
=F(t2-2t0t+2t0-t02)/2m+v0(t-t0)+x0
=F(t2-2t0t+t02)/2m+v0(t-t0)+x0
=F(t-t0)2/2m+v0(t-t0)+x0

となって、積分定数を消して具体的に現実の物の運動と調べることができるようになった。 この、運動方程式の解の中の積分定数を消すために必要なある時刻における物の位置と速度を初期位置とか初速度とか呼ぶ。 これはある時刻t0というのを、物が力を受けて動き始める始めに設定することが多くて、その時間を運動の時間を測り始める基準に設定して、その時刻を0とすることが多いからである。 つまりx0とv0は物が運動し始めた、始めにあった場所と始めに持っている速度なので初期位置とか初速度とか言うのである。 初期位置や初速度を合わせて初期条件と言ったりもする。 運動方程式の解が初期、つまりt=t0に満たしていないといけない条件だから、初期条件と呼ばれるのである。

同じように運動方程式の解から積分定数を消すための方法として、定積分を計算するという方法がある。 定積分を計算すればどこを基準に考えていても、基準点の影響は無くなるからである。 具体的に、物がいつどこにあるのかを運動方程式から計算するためには定積分を計算する必要があるのである。

運動方程式を定積分すれば、その物がある時間から別の時間までの間にどれだけの力を受けどれだけ加速したのかが計算できる ある時刻t0に物がある速度v0で動いていることが分かっていたとすると、ある時刻tにおける物の速度はt0の時の速度であるv0からどれだけ加速したのかが分かれば計算できる。 そこで、運動方程式のx成分をt0からtまで定積分すれば、

tt0[d2[x(s)]/ds2]・ds=∫tc[d2[x(s)]/ds2]・ds-∫t0c[d2[x(s)]/ds2]・ds

=∫tcFx/m・ds-∫t0cFx/m・ds
=Fx・t/m+Cx-(Fx・t0/m+Cx)
=Fx・t/m-Fx・t0/m
=Fx(t-t0)/m

となる。 これがt0からtまでの時間の間にこの物が受ける加速である。 そして加速する前、t0の時にこの物の速度はv0なのだから、このx成分をv0xと書くと、

vx(t)=Fx(t-t0)/m+v0x

ということで、速度のx成分が得られた。 これをさらにt0からtまで定積分すれば、時刻tまでの間に物がどれだけ動くかが分かる。 実際定積分してみると、

tt0vx(s)ds=∫tt0[Fx(s-t0)/m+vx0]ds

=∫tt0[Fxs/m]ds-∫tt0[-Fxt0/m+vx0]ds
=Fxt2/2m+C-(Fxt02/2m+C)-{[-Fxt0/m+vx0]t+C'-[-Fxt0/m+vx0]t0+C'} =Fxt2/2m-Fxt02/2m-Fxt・t0/m+vx0t+Fxt02/m-vx0t0
=Fxt2/2m-Fxt・t0/m+Fxt02/2m+vx0t-vx0t0
=Fx(t-t0)2/2m+vx0(t-t0)

となる。 これが時刻t0からtまでの間の時間に物が動く距離である。 そしてt0には物はx0にあったのだから、そのx成分をx0と書くと、

x(t)=Fx(t-t0)2/2m+vx0(t-t0)+x0

ということになる。 同じ議論をy成分とz成分でもやれば、xをyやzに変えただけで同じ結果が得られるから、時刻t0にx0にあり、v0の速度で動いていた物が一定の力Fを受けて加速したら、時刻tでのその物の位置は、

x(t)=(Fx(t-t0)2/2m+vx0(t-t0)+x0,Fy(t-t0)2/2m+vy0(t-t0)+y0,Fz(t-t0)2/2m+vz0(t-t0)+z0)

=(Fx(t-t0)2/2m,Fy(t-t0)2/2m,Fz(t-t0)2/2m)+(vx0(t-t0),vy0(t-t0),vz0(t-t0))+(x0,y0,z0)
=F(t-t0)2/2m+v0(t-t0)+x0

となって、先ほど積分してから積分定数を消して得た結論と同じ式になった。 もしもt0を時間を測る基準点にして、その時刻を時刻0としたら、

x(t)=Ft2/2m+v0t+x0

となる。 速度は位置の1階微分なのだから、

v(t)=Ft/m+v0

となる。 これはt=0の場合はx(0)=x0になるし、もし力が働いていないならF=0になるのだからv(t)=v0となって時間がたっても速度は変わらないということで、慣性の法則を満たしている。 これが物に一定の力が働いている時の最も一般的な場合の解である。

自由落下

さて、一定の力が働いている場合の、一般的な初期条件における運動方程式の解が求まったのだから、具体的に様々な力や初期条件における運動の様子を見てみようと思う。 まずは自由落下について考える。 自由落下とは、物に重力以外の力が働いていない場合に物がする運動のことである。 なので物に働いている力は(0,0,-mg)である。 重力を表す-mgのmは、運動方程式で出てくるmと同じものである。 となると運動方程式は、

m・d2[x(t)]/dt2=(0,0,-mg)

となる。 この微分方程式の解は、既に解いた解のFx=0、Fy=0、Fz=-mgの場合になる。 積分定数を無くして具体的な位置を計算するには初期条件を決める必要があるが、手に物を握って支えておき、ある時間に手を放して自由落下する場合を考え手を放した瞬間を時間を測る基準にしてその時間を0とすれば、初速度は止まっているからv0=(0,0,0)だし、初期位置は手の位置になるが手の位置はどこでもいいので、それをx0=(x0,y0,z0)とすると、この力が働いているとき位置x(t)は、

x(t)=Ft2/2m+v0t+x0

=(0,0,-mg)t2/2m+(0,0,0)t+(x0,y0,z0)
=(x0,y0,-mg・t2/2m+z0)
=(x0,y0,-gt2/2+z0)

となる。 z0は物を落とす時の高さで、時間が経つに従って変化するのはz成分だけ、つまり物の高さだけである。 なので、x方向とy方向の距離を測る基準点をx0とy0に変えれば、初期位置は(0,0,z0)になるから、

x(t)=(0,0,-gt2/2+z0)

ということになる。 この結果をよく見ると、手を放した後の物の高さは落とした位置から時間の2乗に比例してどんどん下がっていくことが分かる。 これは落とし始めた瞬間からどんどん速さが速くなり、同じ時間の間にもより長い距離を落ちるようになるということである。 実際、このx(t)を1度微分すれば速度になり、

v(t)=(0,0,-gt)

となって、確かに落ちる速さは時間が経つにつれて下向きに大きくなっていく。 より具体的に考えると、落とし始めて1秒後には物はz0-g/2メートルという位置にあるということで、最初の1秒で落ちた高さはg/2メートルになる。 次の1秒、つまり落とし始めて2秒後には物はz0-2gメートルという位置にあり、この1秒の間に落ちた高さは3g/2メートルになる。 最初の1秒よりも次の1秒で落ちた高さの方が長くなっている。

また、自由落下では物の質量と落ちる速さ、落ちるまでにかかる時間は変わらないことが分かる。 なぜなら、重力は物の質量に比例して大きくなり、それが運動方程式に出てくる慣性質量と打ち消しあうので結果は物の質量に関係しなくなるからである。 これは軽い物でも重い物でも、自由落下なら、つまり重力だけしか働いていないなら完全に同じように落ちるということである。 重い物の方が強い重力が働いているということなのだから、より強く加速されそうだが、そうはならずに軽い物と同じように動くのである。

しかし、ここには少し難しい話がある。 というのは、運動方程式に出てくる慣性質量は、物の動きにくさを表す数である。 ある力に対して簡単に加速されるのか、なかなか加速しないのかを表す数である。 そして重力を表す-mgという書き方のmは、物が地球と引き合う力の大小を表す数である。 これが大きければ大きいほど地球と強い力で引き合うことになる。

片方は物の動きにくさを表す数、片方は地球が物をどれだけ引っ張るかを表す数である。 この2つが本当に打ち消しあうのだろうかという疑問がある。 これは物凄く難しい話なので、ここではこれ以上は触れないが、とりあえずは本当に打ち消しあうと思っておいて問題はない。

では高さz0メートルから物を落として、地面に落ちるまでどれくらいの時間がかかるだろうか計算してみる。 物の高さは地面を0として測るのだから、物が地面についているというのはx(t)のz成分が0になるということで、

-gt2/2+z0=0

になるということである。 この方程式はt=±√(2z0/g)のときに成り立つのだが、負の時間は物を落とし始める前を表していて、その時間には物には重力だけでなく手からの力も働いていて今の運動方程式の解では表せない運動をしているので考えから外す。 そうするとz0メートルの高さから物を落として地面に落ちるまでにかかる時間は√(2z0/g)秒だということになる。 自由落下には物の重さは関係してこないので地面に落ちるまでにかかる時間も物の重さとは関係なくなる。 これは重い物も軽い物も同じ高さから落とせば同時に落ちることを意味している。

より具体的に数値を計算すると、例えば10メートルの高さから物を落としたら何秒で地面まで落ちるかを計算してみる。 重力加速度はg=9.8m/s2とすると、

t=√(2z0/g)

=√(2・10/9.8)
=1.428571...

となって、約1.4秒で物は地面に落ちるということが分かる。 実際には空中で物を落としても空気抵抗があるはずなのでこれよりもう少し時間がかかるはずだが、それでも1.4秒に近い秒数で物は地面に落ちることになる。 このように、運動の法則を定性的に議論していただけでは、単に物が落ちるということしか分からなかったのが、定量的に議論することによって何秒で落ちるかという議論ができるようになるのである。 これが運動の法則を数学的に表す大きな利点の1つである。

物を真上に投げ上げる運動

次は物を真上に投げ上げる場合を考える。 これは自由落下のときと同じ力が働いているが、初速度が0ではなく上向きに速度がある場合である。 ここではそれをv0=(0,0,v0)と書いておく。 かかっている重力と初期位置は自由落下のときと同じように書くと、物を投げ上げて手を離れた瞬間を時間を測る基準にしてそこを0秒とすれば、t秒後の物の位置は、

x(t)=Ft2/2m+v0t+x0

=(0,0,-mg)t2/2m+(0,0,v0)t+(x0,y0,z0)
=(x0,y0,-mg・t2/2m+v0t+z0)
=(x0,y0,-gt2/2+v0t+z0)

ということになる。 t秒後の物の動く速度は、これを微分すればいいのだから、

v(t)=dx(t)/dt

=(d[x0]/dt,d[y0]/dt,d[-gt2/2+v0t+z0]/dt)
=(0,0,-gt+v0)

となる。 この結果を見ると、やはり自由落下のときのように縦方向にしか動きはない。 そして速度を見れば、t=0のときはv(0)=(0,0,v0)なので上方向の速度を持ち、時間が経つに従って1秒ごとに-gずつ上に動く速さが遅くなっていき、やがて止まり、そこから自由落下することが分かる。 投げ上げられた物が止まるまでにかかる時間はv0/g秒である。 それは実際にt=v0/gのときの速度を計算してみると、

v(v0/g)=(0,0,-g・v0/g+v0)

=(0,0,0)

となって、確かに0になる。 これは上に投げ上げられた物はv0/g秒後に止まるということである。 始め持っていた上向きの速度が重力によって減速され続けて止まったとしても、相変わらずその物には重力が働いているので今度は下向きに加速する。 また、止まるまでにかかる時間は初速度に比例することが分かる。 つまり勢いよく上に投げ上げられれば投げ上げられるほど、止まるまでにかかる時間も長くなるということで、これは日常的に感じる感覚でも正しいと分かる。

上に投げ上げて自由落下する直前まで、つまり一番高くなるまでにかかる時間が求まったのだから、それと位置を表す式を使えば、

x(v0/g)=(x0,y0,-g(v0/g)2/2+v0・v0/g+z0)

=(x0,y0,-v02/2g+v02/g+z0)
=(x0,y0,v02/2g+z0)

となって、一番高く上がったら、その高さはv02/2g+z0になることが分かる。 z0は初期位置なので、投げて上がった高さはv02/2gである。 上がる高さは初速度の2乗に関係してくるのが分かる。 つまり、手を離れた瞬間の速さが2倍になれば、上がる高さは4倍になるし、3倍になれば9倍になる。

物を投げ上げて、それがまた落ちてきて手元に戻ってくるまでにかかる時間は、上がった高さを自由落下しなくてはならないのだから、一度上がった高さを落ちて、もう一度高さがz0になるまでにかかる時間である。 これは先に計算しておいたx(t)のz成分がz0になるまでにかかる時間で、

-gt2/2+v0t+z0=z0

という方程式の解である。 これは、z0を右側と左側の両方から引き算して、

-gt2/2+v0t=0

となる。 これは、

-gt2/2+v0t=t(-gt/2+v0)

=0

なのだから、t=0とt=2v0/gがこの方程式の解になる。 t=0の時に物がz0の高さにあるのは当たり前である。 なぜなら物が手から離れて投げ上げられた瞬間を時間を測る基準にしたのであり、時刻0に物がある高さをz0という初期位置だと決めたからである。 なので、今欲しい答えはt=2v0/gの方で、実際に

x(2v0/g)=(x0,y0,-g(2v0/g)2/2+v0・2v0/g+z0)

=(x0,y0,-2v02/g+2v02/g+z0)
=(x0,y0,z0)

となって、確かにt=2v0/gのとき物は初期位置に戻る。 つまり手元に戻ってくる。 この時の物の速度は、

v(2v0/g)=(0,0,-g・2v0/g+v0)

=(0,0,-v0)
=-v0

ということで、初速度を-1倍したものになる。 これは初速度の反対向きの速度ということで、始めに手を離れて上に上がっていく時の速さと同じ速さで反対向き、つまり下に落ちるように動いているということである。 物を投げると手元に戻ってきた時には、投げた時と同じ速さになって戻ってくるということである。 t=v0/gの時に物は一番高い位置まで昇り、t=2v0/gの時に手元に戻ってくるのだから、手元から一番上まで上がるのにかかる時間も、一番上から手元まで下がるのにかかる時間も同じになってv0/g秒かかるということである。 v0/g秒で手元から一番上まで上がり、そこからv0/g秒で手元まで戻ってくるので、手元から離れた瞬間から時間を測れば手元に戻ってくる時刻はt=2v0/gとなるのである。

定性的に運動の法則を使って運動を説明していたときには、物を投げ上げたら元の場所まで戻ってくるというのは分かっても、一番上まで上がるまでにかかる時間と手元まで下がるのにかかる時間が同じであることなどは分からなかった。 それが定量的な議論をすることによって分かるようになったのである。 これも物理法則を数学を使って表す大きな利点の1つである。

放物運動

次は斜めに物を投げ上げる場合を考える。 物を放り投げたときの運動なので、このような運動は放物運動と呼ばれる。 相変わらず物に働いている力は重力のみであると考える。 そうすると、物に働いている力は自由落下や物を真上に投げ上げる運動と同じだが、初速度がv0=(0,v0y,v0z)の場合を考えていることになる。 これは先ほどの物を真上に投げ上げた場合のように上向きの初速度に加えて、さらに横向きにも初速度を持った運動ということである。 横向きの初速度はx方向でもy方向でもその両方でもいいのだが、話を簡単にするだけにy方向だけに初速度を持っている状況を考える。 あるいは、物を投げる方向をy方向と呼ぶようにする。

このような運動も一般的な解の具体的な例として考えることができる。 今の場合はF=(0,0,-mg)、v0=(0,v0y,v0z)、x0=(x0,y0,z0)となる場合の物の運動である。 x0=(x0,y0,z0)というのは物を斜めに放り投げて、物が手から離れた瞬間にある位置のことである。 この場合は、物の位置x(t)は、

x(t)=Ft2/2m+v0t+x0

=(0,0,-mg)t2/2m+(0,v0y,v0z)t+(x0,y0,z0)
=(x0,v0yt+y0,-mg・t2/2m+v0zt+z0)
=(x0,v0yt+y0,-gt2/2+v0zt+z0)

となる。 z方向への運動は先ほど見た真上に物を投げ上げる場合の運動とほぼ同じになるが、今回はy方向にも初速度があるのだから、時間が経つに従ってy方向にも物は動いていく。 y方向には力は働いていないので、物は慣性の法則によって元の運動を続けるからである。 だから、斜めに物を投げ上げる運動というのは、z方向の運動だけに注目したら先ほどの真上に物を投げ上げる運動と同じなのだが、物が上がって落ちてくる間に上下だけでなく横にも動いている運動なのである。

物が上がって落ちるのにかかる時間は、先ほどの物を真上に投げ上げる運動の場合のv0をv0zに変えただけなので、斜めに投げ上げた場合も一番高い高さまで上がるまでにかかる時間はv0z/g秒だし、そこから始めの高さまで落ちるのにかかる時間もv0z/gである。 つまり、物を斜めに投げ上げて、上がって落ちてきて始めの高さまで戻ってくるまで2v0z/g秒かかるということである。 この時間の間に物はy方向にどれだけ進むかというと、

x(2v0z/g)=(x0,v0y・2v0z/g+y0,-g(2v0z/g)2/2+v0z・2v0z/g+z0)

=(x0,2v0yv0z/g+y0,z0)

ということで、2v0z/g秒の間に横には2v0yv0z/gメートル進む。 しかし、まだ物はz0の高さにあって、これは地面からz0メートルの高さにあるということだからまだ空中にあり、物は地面につくまでもうしばらく動いていられるということになる。 地面の高さを0としているのだから、斜めに投げ上げられた物が地面につくまでにかかる時間は

-gt2/2+v0zt+z0=0

という方程式の解なのだが、これを解くと、

-gt2/2+v0zt+z0=-gt2/2+v0zt-g/2・(v0z/2g)+g/2・(v0z/2g)+z0

=-g/2・(t2-2v0zt/g+(v0z/g)2)+g/2・(v0z/g)2+z0
=-g/2・(t-v0z/g)2+g/2・(v0z/g)2+z0
=0

となり、これからg/2・(v0z/g)2+z0を引き算したら、

-g/2・(t-v0z/g)2+g/2・(v0z/g)2+z0-[g/2・(v0z/g)2+z0]=-g/2・(t-v0z/g)2

=-g/2・(v0z/g)2-z0

となる。 これに-2/gを掛ければ、

(t-v0z/g)2=-2/g[-g/2・(t-v0z/g)2-z0]

=(v0z/g)2+2z0/g

となって、この平方根を考えると、

t-v0z/g=±√[(v0z/g)2+2z0/g]

となって、これにv0z/gを足せば、

t=v0z/g±√[(v0z/g)2+2z0/g]

となり、z方向の高さが0になった時、つまり地面に物がつく時刻が分かった。 分かったのはいいのだが、t=v0z/g+√[(v0z/g)2+2z0/g]とt=v0z/g-√[(v0z/g)2+2z0/g]の2つの時刻が解として得られた。 地面につくまでにかかる時間が2種類あるというのはおかしな話に見えるかもしれないが、確かにこのtの値を元の方程式に代入して試してみると0になるので、この2つのtの値が方程式の解であることが分かる。

しかしt=v0z/g-√[(v0z/g)2+2z0/g]を良く見ると、これは負の数であることが分かる。 なぜなら

(v0z/g)2<(v0z/g)2+2z0/g

なのだから、その平方根を考えても元の数の大小関係と平方根の大小関係は変わらないので、

√(v0z/g)2=v0z/g

<√[(v0z/g)2+2z0/g]

となる。 それを踏まえてv0z/g-√[(v0z/g)2+2z0/g]を見ると、これは小さい数から大きい数を引き算していることになり、全体としては負の数になることを意味しているからである。 今の運動は手から物が離れた瞬間を0としているのだから、負の時刻ということは物を投げる前ということになり、その時間における運動は考えていないのだから意味がないことになる。 つまり、欲しかった答えはt=v0z/g+√[(v0z/g)2+2z0/g]の方だということになる。

このt=v0z/g+√[(v0z/g)2+2z0/g]の時刻に投げた物は地面に落ちる。 この時刻までにどれだけy方向に動くかを計算すると、y方向にはv0yt+y0という様に動いていくのだから、

v0yt+y0=v0y{v0z/g+√[(v0z/g)2+2z0/g]}+y0

=v0yv0z/g+v0y√[(v0z/g)2+2z0/g]+y0

ほど動くことになる。 かなり複雑な式になったが、基本的にはy方向やz方向の初速度が速ければ速いほど長い距離を進み、手を離した高さが高ければ高いほどより遠くまで物が飛ばせることが分かる。 これも日常の感覚と一致している。

6.4.2 単振動

これまでは力が一定の場合だけを考えてきた。 これからは力が変化する場合も考える。 まずは物に働く力が物の場所によって変わる場合を考える。

力が物の位置によって変わるということは、力がxの関数になっているということである。 成分が3つもあると話が複雑になって大変なので、x方向にだけ力が働いていて、x方向にだけ物が動く場合を考える。 x方向に位置によって変わる力が働いているとする。 この力はx0という位置を中心にして、そこから外に離れれば離れるほど、中心に向かって強く引っ張られるような力を考える。 つまりF=(-k(x-x0),0,0)という力が働いているとする。

しかしこのままでは少し運動方程式が複雑になるので、位置を測る基準をx0に変える。 そうすると、物に働いている力はF=(-k・x,0,0)という力が働いていることになる。 この運動方程式のx成分は、

m・d2x(t)/dt2=-k・x(t)

ということになる。 この微分方程式の解は、

x(t)=A・sin(√(k/m)・t)+B・cos(√(k/m)・t)

となる。(5章で合成関数の微分を説明し忘れたのでこれ以上は解説不能)

6.4.3 円運動

二次元の円運動。

6.4.4 空気抵抗のある運動

限界速度について。

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