第10章 物理5 保存量

要約

運動の3法則から力学には物が運動している間一定であり続けるという性質を持つ保存量という量が存在することが導かれる。保存量には運動量、角運動量、エネルギーなどといったものがある。

目次

10.1 保存量

10.1.1 運動量保存測

運動の勢いは保存する

これまで物の運動に関する法則を導いてきた。 それらを利用すれば物の運動の未来を予測したり理解したりできる。 運動の性質は全てそれらの法則を使えば理解できる。 だが、それらの法則から論理展開していって、定理を得ることができる。 それらの定理は個別の運動の性質には関わらず、より一般的な運動の性質となる。

そのような定理の中に保存則というものがある。 保存則とは、物が運動している間にその値が変化しない量のことである。 例えば、いくつかの物が箱の中に入っていたとして、それが丈夫にできていて壊れないならいくら箱を振って中の物がぶつかったり跳ねたりしながら運動しても、全体の物の個数は変化しない。 そういうとき、運動の最中に物の個数は保存するとか、単に物の個数は保存する、などと言う。 保存する量のことを保存量と言う。 このような保存量には運動量というものがある。 これから運動量の保存則について説明していく。

運動量というのは、物の質量と速度を掛けたベクトルのことである。 つまり、

p=m・v

という量である。 質量と速度を掛けたものだから、これは同じ速度で動いているなら重い物ほど大きくなるし、軽いものほど小さくなる。 また、同じ重さなら速度が大きい方が大きくなる。 重い物を動かす方が大変だし物を速く動かすのも大変なので、これは物の運動の激しさを表している。 運動量が大きければ大きいほど、その物の運動は激しいということになる。 この、運動量という量が運動の最中で保存するのである。 それを、まずは2つの物の運動について見ていく。

2つの物が力を働かせあって運動しているとする。 1つ目の物を物体1と呼んで、その質量をm1、その位置ベクトルをx1、物体1に物体2から働いている力はF12と表す。 位置ベクトルや力などのベクトルは本来ならx1や、F12と表すべきだが、それだと式が複雑で見にくくなってくるので矢印は省略するが、これらはベクトルを表していることにする。 そうすると、2つ目の物を物体2と呼んで、その質量をm2、その位置ベクトルをx2、物体2に物体1から働いている力はF21と表せる。 このような場合、この2つの物の運動方程式は次のようになる。

m1d2x1/dt2=F12
m2d2x2/dt2=F21

物体1は物体2から働くF12という力を受けて運動し、物体2は物体1から働くF21という力を受けて運動する。 しかし、作用反作用の法則から、物体1から物体2へ働く力は物体2から物体1へ働く力と同じ大きさで反対向きの力になる。 つまりF21=-F12である。 これを2つの運動方程式に代入すると、

m1d2x1/dt2=F12
m2d2x2/dt2=-F12

となる。 2つの方程式を足すと、

m1d2x1/dt2+m2d2x2/dt2=F12-F12

=0

となる。 微分は微分してから数を掛けても数を掛けてから微分しても結果が変わらないし、2つの関数を足してから微分しても微分してから足しても結果が変わらない。 また、位置の2階微分は速度の微分であることを考えると、

m1d2x1/dt2+m2d2x2/dt2=0

⇔m1dv1/dt+m2dv2/dt=0
⇔d[m1v1]/dt+d[m2v2]/dt=0
⇔d[m1v1+m2v2]/dt=0
⇔d[p1+p2]/dt=0

となる。 ちなみに物体1の運動量をp1、物体2の運動量をp2と書いた。

この式は一体何を意味しているかを考える。 まず、微分して0になるものは何かと考えると、それは定数関数である。 つまり、ある定数をCで表して、

d[p1+p2]/dt=0⇔p1+p2=C

ということである。 物は運動しているのだからその位置ベクトルは時間の関数になり、速度も時間の関数になる。 運動量は速度に質量を掛けただけなのだから、もちろんそれも時間の関数になる。 だからp1もp2も物が運動している間は時間が経つに従って変わっていく。 しかし、それを足したら常に一定になっているということである。 つまり運動量は保存量ではないが、運動量の合計は保存量になっている。

これは運動の勢いは保存するということを言っている。 例えば始め止まっている物に別の物をぶつけた場合、止まっていた物はぶつかってくる物に押し出されて動き出す。 そしてぶつかっていった物は止まっていた物に勢いを移して自分はほとんど止まる。 このような衝突の中で始めぶつける物が持っていた運動の勢いはぶつかった後も保存されるということである。

つまり、質量mの2つの物があったとして、片方は止まっていて、そこにもう片方をvの速度で投げつけた場合、ぶつかった後の2つの物の速度はどうなるかは分からないが、必ずその運動量の合計は始めに物が持っていた運動量と一致するのである。 ぶつかった後の2つの物の運動量をp1+p2とすると、始めに物が持っていた運動量は片方は止まっているから0、もう片方は速度Vで動いているからmvなので、

p1+p2=mv

⇔mv1+mv2=mv
⇔v1+v2=v

となるということである。 2つの物がぶつかった後の速度が具体的にどうなるかは分からないが、その合計は必ずvになるということである。 このように保存則を使うことで物の運動に関する新しい性質が理解できるようになる。

今、証明したのは2つの物の間に力が働いている場合であった。 これをより一般的な法則にするには、どんな数の物の間に力が働いていても成り立つことを確かめたい。 一般的にn個の物が力を働かせあって運動している場合は、運動方程式は、

m1d2x1/dt2=F12+F13+F14+...+F1n
m2d2x2/dt2=F21+F23+F24+...+F1n
m3d2x3/dt2=F31+F32+F34+...+F3n
...
mnd2xn/dt2=Fn1+Fn2+Fn3+...+Fn(n-1)

となる。 そして作用反作用の法則から、Fij=-Fjiとなるので、

m1d2x1/dt2=F12+F13+F14+...+F1n
m2d2x2/dt2=-F12+F23+F24+...+F1n
m3d2x3/dt2=-F13-F23+F34+...+F3n
...
mnd2xn/dt2=-F1n-F2n-F3n-...-F(n-1)n

となる。 表を使って書くと、

物体物体1から働く力物体2から働く力物体3から働く力物体4から働く力・・・物体nから働く力
物体1×F12F13F14...F1n
物体2-F12×F23F24...F2n
物体3-F13-F23×F34...F3n
物体4-F14-F24-F34×...F4n
...
物体n-F1n-F2n-F3n-F14...×
表1 各物体に働く力

となる。 表をよく見ると、左上から右下に引いた対角線の上と下とで物体同士に働く力が調度打ち消しあうのが分かる。 なので、これらの式を全て足すと、

m1d2x1/dt2+m2d2x2/dt2+m3d2x3/dt2+...+mnd2xn/dt2=F12+F13+F14+...+F1n
-F12+F23+F24+...+F1n-F13-F23+F34+...+F3n +...-F1n-F2n-F3n-...-F(n-1)n

=0

この式を同値変形していくと、

m1d2x1/dt2+m2d2x2/dt2+m3d2x3/dt2+...+mnd2xn/dt2=0

⇔ m1dv1/dt+m2dv2/dt+m3dv3/dt+...+mndvn/dt=0
⇔d[m1v1]/dt+d[m2v2]/dt+d[m3v3]/dt+...+d[mnvn]/dt=0
⇔d[m1v1+m2v2+m3v3+...+mnvn]/dt=0
⇔d[p1+p2+p3+...+pn]/dt=0

となって、運動量の合計の時間微分が0になるのが分かる。 つまり、運動量の合計は運動の最中時間に対して定数関数になる。 よって運動量の合計は定数になる。 運動量の合計を全運動量と言うなら、全運動量は保存する。 定理として書くなら、

微積分と運動の3法則が成り立つならば全運動量は保存する。

となる。

10.1.2 角運動量保存測

回転の勢いは保存する

運動量と同じように角運動量と呼ばれる量は保存する。 角運動量というのはベクトルの外積を使って書くと、x×pとなる。 いくつかの物が力を働かせあって運動している場合、この合計は時間が経っても変化しないで一定である。 つまり保存量になる。 証明は省略する。

10.1.3 エネルギー保存測

活力は保存する

このように運動量や角運動量は保存する。 これらはベクトルの保存量である。 ではベクトルではない数で保存するものは無いのかと言ったら、実はある。 それがエネルギーである。 エネルギーの保存則はニュートン力学に留まらず、非常に広い範囲で成り立つ保存則である。

エネルギーについて考える前に物を投げ上げる運動について考える。 ある高さh0から真上に物が初速度v0で投げ上げられたとすると、時間t秒経った後の位置をh、速度をvとすると、

h=-gt2/2+v0t+h0
v=-gt+v0

となる。 速度の関係から、

v=-gt+v0⇔t=(v0-v)/g

となるので、このtをhを表す式に代入すれば、

h=-gt2/2+v0t+h0⇔h=-g[(v0-v)/g]2/2+v0[(v0-v)/g]+h0

⇔h=-(v0-v)2/2g+v0(v0-v)/g+h0
⇔gh=-(v0-v)2/2+v0(v0-v)+gh0
⇔gh=-(v02-2vv0+v2)/2+v02-vv0+gh0
⇔gh=-v02/2+vv0-v2/2+v02-vv0+gh0
⇔gh=v02/2-v2/2+gh0
⇔v2/2+gh=v02/2+gh0
⇔v2/2+gh=C

となって、最後の式の左側は時刻tにおける物の速さと位置によって決まる量で、右側は初速度と初期位置によって決まる定数Cになっている。 これは物が運動している間中、どの時間を考えてもv2/2+ghが一定になることを意味している。 これは物の運動を表す式で、物には重い物や軽い物があるからその違いを出すためにその物の質量mを掛けて、

mv2/2+mgh

とすると、これが運動の最中に一定になるということが分かる。 mv2/2は運動エネルギー、mghは位置エネルギーと呼ばれていて、今の場合はその合計が保存量になっている。 運動エネルギーと位置エネルギーの合計を全エネルギーと呼べば、全エネルギーは保存する、ということになる。

今は物に働いている力が重力だけの場合を考えたから運動エネルギーと重力による位置エネルギーしか出てこなかったが、エネルギーとしては他にもバネの弾性力からくる弾性エネルギーというものがある。 弾性エネルギーはバネの自然長さからの伸びや縮みをxで表し、バネ定数をkで表すと、kx2/2で表すことができる。 なのでもしも重りがバネにつながって空中に放り投げられたら、

mv2/2+mgh+kx2/2

が運動の最中に一定になるのである。 エネルギーには運動エネルギー、重力による位置エネルギー、バネによる弾性エネルギーの他にも非常に様々なエネルギーがあり、その全ての合計は保存量になることが分かっている。 つまり、全エネルギーは保存するのである。

今考えたのは1つの物の持つエネルギーである。 もし物が複数あったら、その全ての物の持つエネルギーの合計が保存量になる。 n個の物があったら、その1つの持つ全てのエネルギーをEiと書き表すなら、

i=1nEi

が一定になるということである。 このように、全エネルギーは保存する。

エネルギーには様々なものがあるが、それら全てに共通するのは物を動かそうとする活力があることである。 活力というのは、物の動きを人で例えていて元気があるということである。 物にもある種の元気があって、元気がいいとよく動くし、元気が無いとあまり動かないのである。 例えば位置エネルギーはmghなので、その物がある高さが高くなればなるほど大きくなる。 物は高い位置にあればあるほど、より長い距離を落ちることができる。 つまりエネルギーが大きい状態はより物を動かそうとする、なんらかの活力が大きいことになる。

また、運動エネルギーはmv2/2なのだから、重い物が速く動いていればいるほど大きくなる。 重い物が速い速度で別の物にぶつかれば、より強い衝撃で他の物を跳ね飛ばすのだから、やはりこれも物を動かそうというなんらかの活力が大きいことになる。 バネの弾性エネルギーはkx2/2となって、縮んだり引き伸ばしたりされた距離が大きくなればより大きくなる。 バネを押し縮めたら反発力で物を弾いたりできるので、やはりこれも物を動かそうというなんらかの活力が大きいことになる。

このように、エネルギーというのは物が持っている動きの活力のことで、その合計は運動の最中で保存するのである。

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