β版への序文

著者は「真理について考える一ヶ月」と題したこれら一連の文章を才能ある若者に数学と科学の基礎を説明するために書き始めた。 主な対象としては高校生を想定したが、大学生でも中学生でも読む価値があると思う。 「真理について考える一ヶ月」という題の通り、才能ある若者が一ヶ月程度で読み通せるような分量にしたいと思って書き始めたのだが、あれもこれもと内容を追加しているうちに、とても一ヶ月では読み通せないような分量になってしまった。 著者自身、高校生のころに学校の授業と平行してこれらの文章を読んだとして、一ヶ月で読み終えることができただろうかと考えると少し自信が無い。 だが夏休みなどを利用して読み耽れば、おそらく読み終えただろうとは思っている。 出藍の誉れと言うが、筆者より才能に溢れた若者なら十分一ヶ月で読み通すことも可能だろう。 そこまで頭脳明晰でなくとも、時間をかけて読み進めれば多くの人が内容を理解することができ、数学や科学の本質を学ぶことができると思う。

数学とは世界を認識することであり、科学とはその認識の範囲内で最も真らしき法則を探し出す手法のことである。 それらは何も数学者、科学者だけに限らず、知的生産に携わる全ての人々の活動に必要とされるものである。 しかしそのことに気づいている人は少ない。 いわゆる知識人と呼ばれる人々でさえも、それをはっきりと理解している人は少ないのが現状である。 そのような現状を鑑み、広く一般に数学や科学を広めようと言うのがこれらの文章を書いた動機の一つである。

全体的な構成としては数学と物理の題材が交互に出てくるようになっている。 まずは数学を学び、それを次の章で物理に応用するという構成になっている。 12章までは数学と物理についての話題であるが、13章からは科学的手法について特別に詳しく触れている。 知的生産に関わる人の全てが理解すべきなのは、これら13章から15章までの科学的手法である。 欲を言えば論理や代数も理解するに越したことはないが、時間が無い人は数学や物理は軽く読み飛ばして、科学的手法についてだけでも学べばこれまで曖昧な手法によって行ってきた知的生産をより正確で深遠な意味を持つように改善できるだろう。

β版と銘打ってあるとおり、これらの文章は様々な欠点を持っている。 最も致命的な文章表現上の欠点は書いている途中で気分が変わったので、である調とですます調が混在していることである。 始めは親しみやすさを出すためにですます調で書いていたが、後からである調に変えた。 書き進めているうちに、もはや親しみやすさを出した程度では読み進める気にならないほど、読者の理解力、論理的思考力を必要とする内容になっていると気づいたからである。 次に図が圧倒的に不足しているという問題がある。 それは図を用意する手間を惜しんで、まずは文章を充実させようと思ったからである。 図は文章を書き終えてから用意するつもりだったが、間に合わなかった。 そのため動作や空間の配置を表す場面に図が無いので非常に説明が分かりにくくなってしまっている。

それでもこれらの文章を世に出そうというのは、これらの文章が人によっては一生を費やしても自力では到達できない真理を含んでいると信じたからである。 これらの文章の中に述べられている「物の考え方」は、現状の中学高校の授業の中ではほぼまったく扱われず、大学以降の教育においても十分に指導されているとは言えない。 単にそれぞれの学問分野における解決済みの問題を、未解決の問題を解くための足がかりにするためにひたすら学んでいくだけであり、どのような考え方で物事を考えるべきかという最も重要な部分はあまり解説されないのが現状である。 しかし、これらの文章を読めば、数学や物理についての基本的な考え方が身に付く。 数学は論理、対応、手続き、抽象化という考え方を身に付ければ、その基礎的な部分を理解することができる。 自然を観察し法則を見つけ出すという科学的手法を身に付ければ、物理など自然科学全てに応用することができる。 著者はそのような考え方の基礎をできる限り分かりやすく読者諸君に紹介したいと思ってこれらの文章を書き、未だ不完全ではあるが学習の助けになると信じここに公開する。

これがこれらの文章を書いた動機の一つである。 もう一つの動機としては収穫加速の法則という法則を世に広く広めることである。 収穫加速の法則とは人間社会の成長が時間に対して指数的になるという経験則なのであるが、その法則の社会的意味は甚大である。 にもかかわらずそれを理解している人は少ない。 それはそもそも指数的という数学概念を理解できる人が少ないということもあるが、その法則があまりに常識とかけ離れた結論を導くので論理的思考力が無いとその真偽を信じることができないためである。 調度かつてあった地動説と天動説の対立や、資本主義と共産主義の対立のように、一方が正しいことは明らかだが多くの人々はそれを判断することができないという事態はたびたび起こる。 現代においてはそれが収穫加速の法則なのである。

詳しい解説は科学2、科学3、付録Bで行っているが、それを読めばこれから数学、自然科学や工学を研究することができる人工知能を作ることがどれほど重要なことかを理解してもらえると思う。 そしてそれを理解できる優秀な若者がその分野に邁進するようになって欲しいというのが、著者がこれらの文章を書いた別の動機である。 人工知能はこれから人間と本質的に同じものになっていく。 それを心と言い換えてもいい。 人の心を創る以上に重要な仕事などありはしない。 著者はできるだけ多くの若者がこの分野に足を踏み入れることを願っている。

それでは最後にこれらの文章の全体的な内容と、そこから何を学んで欲しいかについて書いておく。 全体的な注意として、これらの文章は分量が多い上に多少の寄り道や難しい内容も含まれているので、読めるところだけを探して読めないところは読み飛ばしてしまってもいいし、全ての章の始めの方だけを読んだり、自分で興味のある部分だけを読んだりして、どこかで詰まってもそこで立ち止まらないで読み進めるようにして欲しい。

第1章は論理と代数について説明している。 対象としては中学生を視野に入れたが、中学で習ったはずの数学の本質を理解しないまま過ごしている人なら高校生でも大学生でも読んで新しい知識を得られるはずである。

第2章は科学と数学の関係について説明している。 物理には数学が使われるが、それは表面的なものではなく本質的に数学が不可欠だということを説明している。 これは科学研究者や大学教授でも数学の苦手な人は理解できていない、非常に高度な内容であるが、きちんと説明すれば高校生でも理解できるものである。

第3章は数学のいたる所に顔を出す対応関係という概念について説明している。 中学や高校の数学では関数として顔を出すこの概念を、より一般的な視点から解説している。 関数を知ってはいるがその意味が理解できていない人が読めば、より深い理解を得ることができるだろうと思う。

第4章は力について説明している。 日常目にする力に関する現象をよく観察し、その性質について議論していき法則を発見する。 ベクトルという数学概念についても簡単に説明し、それを使って力を数学的に表現していく。 高校の物理でおざなりに教えられていることを懇切丁寧に説明し議論することを心がけた。

第5章は数学のいたる所に顔を出す手続きによる定義という概念について説明している。 数学にはある手続きを行って得られる物、という様に何かを定義することがある。 手続きを使って数、数列、極限、などが定義されることを解説し、最後に微積分を解説した。 高校で習う数学の大部分がここで説明されている。

第6章は運動の法則について解説している。 日常目にする現象から議論していき運動の法則を導き出した後、運動方程式を微積分を使って書き、その解について解説した。 ニュートン力学の基礎がここに書かれている。 高校で習う力学の基礎的な部分が解説されているので、難しい問題を解くために力学の理解を深めなくてはいけない学生に役立つと思う。

第7章は数学の舞台として使われる代数系という概念について説明している。 数学で抽象化した概念を扱う理由や利点について説明し、ベクトルを題材にして具体的にその利点を解説する。 高校で習うベクトルに関してより深い理解をすることができるので、そういう物があると知ってはいてもベクトルとは何なのか、その印象がぼやけている人が読めばすっきりした理解ができるようになるだろうと思う。

第8章は回転運動について説明している。 回転がベクトルで表されるものであることを解説している。

第9章は論理的な議論とは何かという問いに答える記号論理学について説明している。 これによって厳密な議論とは何かを理解できるようになる。 これは知的な生産をする人なら誰でも学ばないといけない内容なのだが、残念なことに多くの人は記号論理についてまったくの無知である現状がある。 ここを読めば高校生だけでなく大学生にも社会人にも有益な知識が学べるはずである。 ここで学んだ論理的思考の方法は一生涯役に立つものである。

第10章は保存量について説明している。 数学的に厳密な議論ができるようになったので、力学の法則を公理から導ける定理として導出する。 運動量保存則やエネルギー保存則について説明している。

第11章は変分について説明する予定である。 これまで学んだ数学を応用することで変分という概念を考えることができ、作用を計算することができるようになる。

第12章は解析力学について説明する予定である。 今まで学んできたニュートン力学をさらに洗練し、より深い理解ができるようになるという自然科学の発展の仕方の実例を見るためである。

第13章は科学法則の信頼性について説明している。 本質的にこの世界に存在する法則は科学法則以外にはないことを解説した。 これも大学教授でも半数以上の人がいまいち理解していない、とても高度な内容である。

第14章は実験による科学法則の発見について説明している。 科学法則はすべて実験によって確かめられなくてはならない。 そのために必要な統計や分布という概念を解説し、実際に筆者が実験した内容について解説してある。

第15章は演繹による科学法則の発見について説明している。 科学法則の理論の構造を考えることによって実験によって得られた法則をまとめ上げ、理論体系を作ることができる。 理論モデルによる法則の例として収穫加速の法則などを解説してある。

付録Aはより高度な内容を学ぶのに役に立つ教科書について紹介している。 大体大学の学部2年生までに習う数学や物理はここに上げた本を読むのが理解する近道だと思う。 買う気になったのなら、広告になっていて料金の一部が広告費として著者に入るので、ぜひこのサイトのリンクから買い求められたい。

付録Bは収穫加速の法則の社会的影響力について説明している。 全てはこれを理解するために必要だったのである。 ここに述べられている内容は論理的に考えれば十分起こりえることだと分かるのだが、常識とはずれているので思考力が無いと理解することはできない。 これを理解するのに十分な思考力を養うためには、どうしてもここまで解説してきた程度の数学や物理を理解していなくてはならなかったのである。 それができる人は限られているが、これらの法則は少数の優れた人材が理解してさえいれば別段問題はない。 この章を読んで人工知能の持つ無限の可能性について理解できたら、ぜひともその分野の研究者を目指して欲しい。

これらの文章は未だ制作途中であり、少しずつ内容を修正していっているものである。 その加筆修正が十分に行えたら今度は第1版として序文を書き換えたいが、それが一体何年後になるか分からないというのが現状である。 しかし、著者の荒削りな文章によって、思惑通り人工知能分野の研究へと向かう若者が1人でも2人でも現れれば試みとしては成功であると述べ、β版への序文とする。

”では真理について考える一ヶ月を始めよう”
2011年4月1日
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